【今日のおすすめ絵本】(対象…3歳頃〜大人まで)
『ゆうびんやのくまさん』
フィービとセルビ・ウォージントン さく・え
まさき るりこ やく
福音館書店
(あらすじ)
あるところに、ゆうびんやのくまさんが、たったひとりですんでいました。くまさんは、バッジのついた ぼうしと、てがみや はがきを いれる かばんを もっていました。
くまさんは、にちようびのほかは、まいあさ、とてもはやく おきます。
ふゆには、そとは、まだ くらいこともあります。……(本文ママ)
*
*
*
*
*
「ゆうびんやのくまさん」の1日がシンプルな文章と美しい絵でつづられている小さな絵本です。
このお話は、何か読者が驚くような特別な出来事がおこるわけではありません。
でも、小さい子は自分の日常とくまさんの日常を重ね合わせて喜びます。(くまさんは朝起きる、出かける、帰る、お風呂入る、ご飯食べる、寝る)
小さい子どもは、自分のよく知っていること、自分と同じことに、うれしくなるのです。
そして、実はこの絵本、大人の心にとてもよく響きます。日々の仕事に疲れているときには特に。
シンプルで癖のない穏やかな文章が心にすっと浸透し、固くなった大人の心をほぐしていくのです。
絵は可愛くて美しいだけではなく、注意深く見るといろいろな部分に「くまさん」のこれまでの人生や人柄が見え隠れしています。
例えば、くまさんは今一人で暮らしているけれど、部屋には美しい女性のくまの絵や、その女性とくまさんの結婚式の写真が飾られています。
くまさんはかつて結婚していたけれど、奥さんが亡くなって今は一人で暮らしているのでしょうか。
でも、くまさんにはちゃんと「ゆうびんや」の仕事があって、仕事をサポートしてくれる人がいて、配達に行くと町の人たちにとても喜ばれている。
くまさんの仕事ぶりはとても丁寧で真面目。
今日はクリスマスで、配達先のお宅でクリスマス・パイとジンジャーエールもふるまわれます。
仕事が終わり、うちに帰ったくまさんは、とても疲れていたのでお風呂に入って晩ごはんを食べます。
家に帰ったくまさんはクリスマスの夜を一人で静かに過ごします。
くまさんはさみしいでしょうか?
きっと、そんなことはないのです。
だって、くまさんの部屋の暖炉の上には「くまさんへ パーティーにきてください ジャンとアンナより」という手紙が飾られていて、クリスマスツリーのまわりにはくまさん宛てのたくさんのクリスマスプレゼントが置かれているのですから。
それらの包みには……
「くまさんへ」
「大すきなくまさんへ ジェインより」
「くまさんへ 愛をこめて」
「くまさんへ」
「ゆうびんやのくまさんへ」
と書かれているのが見えます。
くまさんは「一人」だけれど、「一人きり」ではないのです。
くまさんは寝ます。
ベッドの横に「サンタさんへ どうぞ おのみください」と書いた手紙とミルクとクリスマス・パイを置いて。
この絵本は「ゆうびんやのくまさん」の一日を描いた作品ですが、この一日は単なる一日ではありません。
これまでくまさんが真面目に丁寧に働きながら心を込めて積み上げてきた「たくさんの一日」の上に成り立つ特別な一日なのです。
いつもがんばっている自分宛のクリスマスの贈り物にぜひ。