oicchimouseのおいっち・にー・さん・しー

oicchimouseの森の図書館員がめくるめく絵本の世界をご案内いたします。お子さまも大人の方もどうぞひと休みしていってくださいな。

おいっちまうすのひとくちポエム〈不思議な栗の木〉

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〈不思議な栗の木〉

 

私が通っていた小学校は、とても小さな古い木造の小学校で、全校児童は35人くらいだった。

 

児童の人数が少ないので、同級生の人数は5、6人。

 

ある日の下校時間。

私たちは大人数で学校から帰っていた。

 

大人数と言っても5年生と6年生を合わせた10人くらい。

 

いつもはそれぞれ仲の良い子2、3人で帰るので、めずらしかった。

 

私たちは帰る途中、神社に寄り道した。

 

そこは神社と言っても小さな祠(ほこら)が一つあるだけ。

 

祠の前は、芝生のような柔らかくて短い草におおわれた何も無い広場だった。

 

私たちはランドセルを背負ったまま、その草の広場をあちらこちらに走り回った。

 

そして、祠の神様にお参りをした。

 

しばらく走り回ったあと、5年生の男の子が草の広場の横のほうに、山の方へと続く、けもの道を見つけた。

 

よし探検だ、みんなついてこい、ということになって、みんな一列に並んで、そのけもの道を上へ上へと登っていった。

 

とても登りやすいけもの道だった。

 

みんな汗をかいて暑くなってきたところで、一面にたくさんの栗の木が生えた野原のような場所に出た。

 

ふと見ると栗の木の下には数えきれないほどたくさんの栗の実が落ちている。

 

栗の実はほとんどイガが開いていて簡単に拾えた。

 

私たちは栗拾いの競争をはじめた。

 

みんな夢中になって栗を拾って、手提げカバンやランドセルに次々と入れた。

 

栗はどれだけ拾ってもなくならない。

 

私たちはカバンを、栗と特別すてきな秘密の場所を見つけた高揚感でいっぱいにして、小学校に戻った。

 

残って仕事をしている先生に見せるためだ。

 

先生たちは驚いてにこにこしていた。

 

給食のおばちゃんが、給食用の大きな大きなお鍋で、私たちの拾ってきた栗を茹でてくれた。

 

私たちはみんなで栗を食べた。それはそれは甘くてとても美味しい栗だった。

 

余った分はみんな家に持って帰ることにした。

 

また、明日も学校帰りに神社に集合してあの場所に栗を拾いに行こう、と約束した。

 

次の日、みんなでまた神社に集合して、草の広場の横にあるけもの道を登って行った。

 

ところが、今日はけもの道の前には空を突き抜けるように竹がたくさん生えていて、行き止まりになっている。1日でこんな背の高い竹がたくさん生えるなんてことが、あるだろうか。

 

みんなが、おかしいおかしい、と言って無理に竹の隙間を通り抜けようとしてみたけれど、竹の向こうは道が途切れていて、崖のようになっている。

 

私たちは、おかしいね、絶対あったのに、と言いながら家に帰った。

 

それから何度もみんなで同じ場所に行ったけれど、栗の木の野原は一向に見つからなかった。

 

大人になってから、気になってまた行ってみたけれど、どういうわけだか、やっぱり見つからない。

 

みんなで一緒に同じ夢をみるはずもないし、確かに山ほどたくさん栗を拾ったし、あんなに楽しかったのに、おかしなこともあるものだ。

 

私はときどき子どもに、この話をする。

 

すると、子どもの中には見たこともない栗の木の野原と楽しい思い出が広がり、私はもう一度、今度は子どもと一緒に、幻の栗の木の下で楽しい栗拾いをすることができる。