【今日のおすすめ絵本】(対象…中学年から大人まで)
『桃源郷ものがたり』
文・松居直
絵・蔡皋
福音館書店
(あらすじ)
昔々、中国に、晋という国があった頃のお話です。
晋の国の武陵というところに、一人の貧しい漁師が住んでいました。
漁師は、毎日川で魚を獲る仕事をして、細々と暮らしを立てていました。
ある日、漁師は夜明けに舟を出し、うんとたくさんの魚を獲ろうと、今まで行ったことのないほど川上へのぼってゆきました。
ふと気がつくと一度も来たことのない山奥にきていました。
ここは一体どこなのでしょう。
そこには普通の木は一本もなく、漁師がこれまでに見たこともない見事な桃の林が、川の両岸にどこまでもどこまでも続いています。
そして、とてもよい香りのする草がびっしりと生えていて、草の上に桃の花びらがはらはらと飛び散っています。
漁師は不思議に思いながら、引き込まれるように先へ漕いでゆきました。
その先にそびえ立つ見慣れない山。
漁師はその山かげにほら穴を見つけます。
ほら穴からは、かすかな光がもれています。
漁師は、舟を降り、かすかな光に誘われながら、ほら穴の奥へと進んでいきました。
ほら穴を抜けたその先で漁師が見たものとは…。
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古代中国を代表する詩人、陶淵明の『桃花源記』をもとに書かれた『桃源郷ものがたり』。
読みながら思わずため息がでるほどに美しい松居直さんの文章と蔡皋さんの絵は、まるで春の夜の夢のようです。
時を経てなおも人々が憧れる理想社会「桃源郷」。
晋の時代を現代社会に置きかえてみると、この世界のどこかにあるまだ見ぬほら穴の先に、また新たな「桃源郷」が見えてくるかもしれません。
明日は都心でも大雪となる可能性があるそうですが、甘やかな気配たゆたう春の訪れを心待ちにしつつ、ゆったりと味わいたい珠玉の名作です。