【今日のおすすめ絵本】(対象…低学年から大人まで)
『九月姫とウグイス』
サマセット・モーム 文
武井武雄 絵
光吉夏弥 訳
岩波書店
イギリスの文豪サマセット・モームが書いた唯一の童話、『九月姫とウグイス』です。
(あらすじ)
「シャムの王さまには、はじめ、ふたりのお姫さまがありました。
王さまは、そのふたりに、「夜」と「ひる」という名まえを、おつけになりました。
そのうち、もうふたり、お姫さまがおできになりました。そこで、王さまは、はじめのふたりの名をかえて、四人のお姫さまに、「春」「夏」「秋」「冬」という、四季の名まえをおつけになりました。
ところが、そのうち、また三人、お姫さまがおできになりました。それで、王さまは、また、名まえをかえて、みんなで七人のお姫さまに、「月曜」「火曜」「水曜」「木曜」「金曜」「土曜」「日曜」という、週の日の名まえを、おつけになりました。
けれども、それから、八人めのお姫さまがおできになったとき、王さまは、はたと、おこまりになりました。
そして、やっと、一年の月の名まえをつけたらと、お気づきになりました。
〈中略〉
いちばん末の八人めのお姫さまには、「八月」、そのつぎにおできになったお姫さまには、「九月」と、おつけになりました。…」(本文ママ)
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1人生まれるごとに前の娘の名前も変えてしまうという発想に驚きますが、その後も、時折ユーモアを散りばめながら非常に魅力的にストーリーが展開していきます。
九人のお姫さまが全員一羽ずつ飼っているオウム。
ある日、九月姫のオウムが死んでしまいます。
九月姫が泣いていると窓から美しい歌声のウグイスが入ってきます。
九月姫とウグイスは仲良くなります。
しかし、姉たちにそそのかされた九月姫は、ウグイスが離れてしまわないように、ウグイスを鳥かごの中に入れてしまうのです。
この絵本の中には「芸術家」という言葉が時折出てきます。
美しい声で鳴くウグイスは、芸術家に喩えられているのです。
かごに入れられたウグイスはこう言います。
「じゆうでなければ、わたしは、うたえないのです。うたえなければ、死んでしまいます。」
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同じくサマセット・モーム作の名作『月と六ペンス』。
こちらは、平凡な一人の男性、ストリックランドが、家庭や今までの生活を全て捨て、芸術に魂を燃やし身を投じていく生涯を描いた物語です。
画家のゴーギャンがモデルともいわれています。
ストリックランドにとっては、これまでの生活全てが、「かご」だったのかもしれません。
2作品を読み比べると、どことなくウグイスとストリックランドの両者が重なります。(ウグイスのほうが穏やかで、情がありますが)
『月と六ペンス』は昔、翌日仕事があるにも関わらず、時が経つのも忘れて夜から明け方までかけて一気に読み終えてしまった作品です。
子どもの頃以来の、夢中の読書体験でした。読む人を惹きつけて離さない強い力のある作品です。
ぜひぜひ、読み比べ楽しんでみてください。