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〜絵本講師oicchimouseの絵本と本と子育ての小部屋〜

『金のさかな』

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【今日のおすすめ絵本】(対象…5歳頃〜大人まで)

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『金のさかな』

作…A.プーシキン

訳…松谷さやか

絵…V.ワシーリエフ

偕成社

 

 

(あらすじ)

青い海のほとりに住む、おじいさんとおばあさん。

 

二人は古ぼけた土小屋で33年の間、暮らしています。

おじいさんは網で魚をとり、おばあさんは糸を紡いで生活しています。

 

 

ある日、おじいさんが海に網をなげると、人間の言葉をしゃべる「金のさかな」がかかりました。

 

金のさかなは、「おじいさん、わたしを 海へ かえして!そのかわり おれいをいたします。なんでも おのぞみのものを さしあげます。」と言いますが、おじいさんは「たっしゃでな、金のさかなよ!おれいなんて いるもんか。青い海へ かえって、大海原で およぎまわるんだね。」と優しい言葉をかけ、金のさかなを海へかえしてやります。

 

ところが、家に帰ってこの出来事をおばあさんに話すと、おばあさんは、「魚からお礼をもらわないなんて、なんて間抜けだ」と激怒して、今から新しい洗濯桶でももらってこい、とおじいさんを叱りました。

 

おじいさんが、海に戻って、金のさかなを呼んで洗濯桶をお願いすると、金のさかながでてきて、言いました。


「しんぱいは いりませんよ。さあ、うちへ おかえりなさい。あたらしいおけが ありますよ。」

ロシア近代文学の父、プーシキンによる

『金のさかな』です。

 

書かれたのは、1833年で今から約180年以上前ですが、まったく古さを感じさせません。

 

ロシアでは、最後の一節「こわれたおけのそばにいる」が、「もとのもくあみ」という意味のことわざとして伝わっているほど、人々に親しまれているお話だそうです。(あとがきより)

 

 

こちらのお話、おばあさんの要望がエスカレートしていくにつれ、海の様子がそれに比例して、どんどん荒れていくのですが、その部分の描写が非常に興味深いです。

(海はかすかに波立つ→海が濁る→荒れる→黒ずむ→どす黒く濁り、嵐が吹き荒れる)

 

 

そして、おばあさん自身も最終的には女王様にまでなるのに、どこまでいっても気持ちが満たされることは無く、荒れ狂う海の如く、おじいさんに怒りをぶつけます。

 

ただ欲望を追求するだけの無意味さ、儚さが描かれているのですが、それだけではなく、序盤でおじいさんが、金のさかなに何も望まず、青い海へかえした場面では、海と共に生きる人々の自然に対する謙虚さと、その重要性のようなものも感じられました。

(このことは、物語後半部分で、おばあさんが、ついに女王様でも満足できず、「海の君主になり、魚の女王である『金のさかな』を家来にして使い走りをさせたい」という自然をも屈させようとする傲慢な願いをしたことにより『金のさかな』が姿を消す、という部分からも垣間見えます。)

 

 

時代の変化にもまったく問題なく耐えうるクオリティ。

 

人間にとって普遍的な問題が、決して教訓的でなく上質で文学的な面白さをまとって自然に物語られている。

 

 

こういうものを本当に良い絵本というのだろうなぁ、と思います。

 

『金のさかな』は、いろいろな画家の方が挿絵を手掛けていらっしゃいますが、こちらはワシーリエフさんの情熱が伝わってくる、とても迫力のある挿絵です。

 

特に海の場面の絵が本当に素晴らしくて、レジャーで訪れる海ではなく、生活の一部分としての海が、とてもリアルに描かれていて、漁村の、潮の香りが今にも漂ってきそうです。

 

 

 

 

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