【今日のおすすめの本】(対象…中学年から大人)
安房直子コレクション3
『ものいう動物たちのすみか』
安房直子・作
北見葉胡・絵
偕成社
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(あらすじ)
新しいコーヒーセットを買ったので、きつねの女の子は、お客をよんでみたくてたまりませんでした。
「ねえ、お父ちゃん。」
「こんど、うちへお客をつれてきてちょうだい。夕食会をしたいの。」
これを聞いて、きつねの父さんはびっくりしてきつね新聞を落としそうになりました。
きつねの娘は人間のお客をよんでみたいと言うのです。
可愛い娘のため、きつねの父さんは人間の男の人に化け、里へとおりて行きました。
会う人会う人に手当たり次第、夕食会へのお誘いをしますが、みんなあやしんで断ります。
お日さまもすっかり沈み、父さんぎつねは困ってしまいました。
その時です。ふと顔をあげると、まるで、たった今、風が運んできたようなちっぽけな店が目の前に一軒あるではありませんか。いつの間に…?父さんぎつねは不思議に思いました。
店には「でんき屋」と書かれています。そして、なんと中から出てきたのは、この前、きつねの親子にコーヒーセットを売ってくれた「せともの屋」だったのです。
なんでも、この店ではせともの屋でもでんき屋でも好きなときに好きな店を開くのだそうです…。(『きつねの夕食会』あらすじ)
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いつの頃からか、とうふ屋さんの店に、間違い電話がちょいちょいかかってくるようになりました。
「もしもし、とうふ屋さんですか。厚あげを一枚、とどけてくださいな。」
「あぶらげニ、三枚、大いそぎでね。」といった具合です。
とうふ屋さんは電話注文はやっていません。
それなのに相手は「きのうは、ちゃんと届けてくれたのに」と言うのです。
一日に何度も似たような電話がくるので、とうふやさんはイライラしました。
電話をとって「こちら、谷原の吉村とうふ店!」とどなると、相手は「あれれ、谷原のねこじゃらしとうふ店じゃないの?」と叫びました。
相手にねこじゃらしとうふ店の電話番号を確認すると不思議なことに「三一三一番」で吉村とうふ店と同じです。
腹を立てたとうふ屋さんは、ねこじゃらしとうふ店を探しだしてやろうと走り出しました。
しばらくいくと、見わたすかぎりのねこじゃらし。ねこじゃらしの草むらです。
プープーとラッパの音。
小さな小さな自転車。
走り抜けていくのは自転車にまたがった茶色い猫。
その猫の顔を見て、とうふ屋さんは驚きました。
それは、家出したまま行方が分からなくなって死んだとばかり思っていた、とうふ屋さんの猫「タロウ」だったのです。
タロウはとうふ屋をはじめてから早寝早起きの生活になり、とても健康になったそうです…。(『ねこじゃらしの野原』あらすじ)
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「ものいう動物たち」についての不思議なエピソードが収められた短編集です。巻末には、エッセイも収録されています。
このエッセイもまた、読み応え抜群です。
「この世には、決してあるはずのない、それでいて、ひょっとそのへんにかくれているかもしれない」
「架空のことを書くのは、現実のことを書くよりも、いっそう真実味がなければならない」
「観念だけで書いた鬼や妖精は、つかみどころのないものになって、泡のようにふわふわと消えてしまいます」(本文ママ)
遠野物語やさまざまな民話を研究され、山の道を歩き、仕事机の上にはご自身への〈養分〉として、筑摩書房の『新修宮沢賢治全集』を置いて仕事をされていたという安房さん。
近松門左衛門が提唱する、「虚と実の間にある薄い皮一枚」のところにのみ存在する物語の究極のおもしろさ。
安房さんの作品は、この「薄い皮一枚」がとても丁寧に描かれています。
まさに職人技ですね。
読書の秋におすすめの一冊です。
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