【今日のおすすめ絵本】(対象…5歳頃から)
『いもぱくり』
こどものとも年中向き 通巻79号
伊藤秀男 さく
福音館書店
(あらすじ)
いもめいげつの日に行われる「いもぱくり」。
どこの家もお家の前にお供物をします。
おいも、すすき、りんごにつきみだんご、ビスケット。
ひのみやぐらのうえに、うれしい満月ののぼるころ、「いもぱくり」がはじまります。
いもぱくりの日は、よその家のお供えをこっそりもらってきてもいいのです。
暗闇の中を美しい名月に照らされた大勢の子どもたちが、あっちへの家へこっちの家へ渡りあるく微笑ましい光景。
どんなに騒いでも今夜だけは大丈夫。
芋を食べながら歩きまわれるように、家からフォーク持参の強者まで…。
「やまださんの まんじゅうは おれたちが もらったぜ」
と自慢する、なつかしのやんちゃ坊主たち。
何気にジャック・オ・ランタンを手に持って、和洋折衷スタイルです。
お供物を盗んでいく子どもたちを、窓の隙間から微笑みながらのぞいている大人たち。
大人たちもみんな楽しそう。
夜もふけてきたころ、子どもたちは、ホクホクの笑顔で家へと帰っていくのです。
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雑誌こどものとも(年中向き)、1992年発行の作品です。
まだ、日本にハロウィンがそこまで定着していない頃に描かれた絵本ですが、登場人物の手にジャック・オ・ランタンがあるのが、なんとも不思議な感じがします。
地域によって呼び方や行事の日にち、お供物を盗むときのルールなどは様々ですが、
「いもぱくり」
「お月見泥棒」
「みいげつ」
「トゥンガモーキャー」
などと呼ばれています。
私の地元でも祖父が小さいころは行われていたそうですが、その昔、お寺のお坊さんか誰かが、「盗み」という風習は、道徳的に良くないと言ったとかで、母の代には無くなっていたそうです。
近代的な価値観とは合わないと判断されてしまったのかもしれませんが、実は「お供物を子どもに盗まれる=お月様が召し上がった」ことを意味しているのだとか…。
盗むというスタイルをとることによって、目に見えないものの力を表現しているのかな?
お供えものを盗まれたら米が豊作になるとも言われているそうです。
また、図書館で司書さんに教えていただいたのですが、
子どもたちが盗みにきた気配がすると、ドアを開けて家の人が外に飛び出してきて、バケツに入れた水を子どもたちに「バシャン!」とかけて追い払おうとする。
→そして、水をかけられた子どもたちと家の人との、お供物をめぐっての激しい攻防が繰り広げられる……。
という一風変わった風習スタイルの地域もあるそうです。
考えただけで、面白そうですよね。
まだまだ「いもぱくり」の行事が残っている地域も多いようですが、今ではいろいろな事情もあり、大人が積極的にお菓子を配るスタイルが主流になりつつあるようです。
「子どもたちだけで暗闇の中を盗み歩く」という本来のスリル満点なスタイルでこの行事を地域の子どもたちにも体験させてあげたいですが、防犯面やらなんやらを考えるとなかなか難しいのでしょうねえ…。
「みいげつ」に関してはこちらのサイトに記事が詳しく載っていました⬇︎
すごくいい記事です。
時代に応じて行事のかたちは変わっても、子どもたちのきらりと光る笑顔は変わりません。大人も子どももいい顔をしていますね。
「トゥンガモーキャー」については、以下の2つのサイトに詳しい記事が載っていました⬇︎子どもたちが「トゥンガトゥンガ」と言ってまわる様子は可愛くて面白いですね。
①
https://amami-minamisantou.keizai.biz/headline/56/
②
昔、自分たちが小さかった頃の景色を懐かしみつつ、与論島の皆さんは子どもたちが楽しめるように色々な工夫をして、島全体で子どもたちを大切に育てている様子が伝わってきます。
ハロウィンにしても、いもぱくりにしても、世界各国にある、子どもを主役にした行事というのは、子どもが、目には見えない不思議な世界と現実の世界をつなぐ「使い」のような役割を担う存在として認識されてきたことがよく分かります。
これは「子ども」という存在の中に、人の力の及ばないもの、なにか神聖なものを感じて大切にしてきた人類共通の認識だと言えるでしょう。
目に見えない大切なものや、当たり前ではない自然の恵みに感謝しつつ、先人が伝えてきた行事を子どもたちと一緒にこれからも大切にしていきたいものですね。
ハロウィンもいいですが、日本に古来からある日本の風土や考え方にあった行事も、ぜひこのお月見の機会に子どもたちに伝えていってもらえるとうれしいです。