【今日のおすすめの本】
トルーマン・カポーティ
川本三郎 訳
『夜の樹』
(新潮文庫刊)
(あらすじ)
つましく目立たない静かな日々を送る未亡人のミセス・H・T・ミラー。61歳。
友だちもおらず、マンションの住人は彼女がいることに気づいてもいない様子。
ミセス・ミラーは夜の雪が降りしきる中、ふと思い立ち映画館へ出かけます。
そこで出会った、自分と同じ名前を持つ不思議な少女「ミリアム」。
どこか奇妙な違和感を感じながらも、ミセス・ミラーはミリアムといくつかの会話を交わし、「お会いできてよかったわ」と言って別れました。
そして、ある日の夜11時すぎ、ミセス・ミラーがベッドに入って新聞を読んでいるとドアのベルが鳴ります。
何度も何度も何度も何度も……。
こんな夜中に一体誰がきたのでしょうか?
「ハロー」
玄関のドアの向こうに立っていたのは映画館で一度会っただけの不思議な少女「ミリアム」だったのです。
真冬の深夜だというのに絹のドレスを着て……。
「ドアを開けてもらえないかと思ったわ。でもずっとベルを押したの。家にいるってわかっていたから。わたしに会えてうれしい?」
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はい、非常に怖いですね。
この「ミリアム」という少女、一体何者なんでしょう?
深夜に、一度会っただけの大人が「中に入れてくれ」と玄関に立っていてもギョッとしますが、これが少女だとなるとさらに不気味さが倍増しますね。
そして、断っているのにしつこく執着される恐ろしさ。
家という極めてプライベートな空間(自分の内面の象徴のような場所)に得体の知れないものが、ずんずん押し寄せてくる不安と恐怖。
「ぞくっ」として「ひやっ」として不気味なんだけれど先を読み進めずにはいられないストーリー。
ちょっと「世にも奇妙な物語」のような雰囲気があります。
登場人物の姿かたちや、動作の一つ一つ、風景の一つ一つの描写が緻密で素晴らしく、頭の中に『夜の樹』の世界が美しく妖しく広がります。
謎めいた魅力にあふれるお話が9編収録された、(早熟の天才)トルーマン・カポーティによる短編集。
寒くて暗い冬の夜に、暖かい部屋で、冷たくて少しゾクッとするお洒落なショートストーリーを読む。
寒い冬にこたつの中でアイスクリームを食べるのが好きな方におすすめの一冊です。