【今日のおすすめ絵本】(対象…小学校中学年〜大人まで)
『三匹の犬の日記』
与謝野晶子 作
つよしゆうこ 絵
架空社
(あらすじ)
正月元日夜が明けた。
起きよというのに起きないか。
太郎さんがこう歌いながら犬小屋の戸を開けに来ました時、三匹の小犬が嬉しそうにおどり上がって、「わんわん、太郎さんおめでとう、わん、わん。」と声を揃えていいました。(本文ママ)
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与謝野晶子の隠れた名作その2。『三匹の犬の日記』です。
正月に立派な「おこしらえ」をしてもらった黒、白、ぶち、という名の三匹の小犬たち。(黒は赤リボン、白は青のリボン、ぶちは水色のリボンをつけてもらいました。)
この三匹の小犬たちは、お雑煮をいただいたあと、太郎さんの姉である春子さんから、「すきなことをして遊んで、晩には家へ帰ってきて日記をつけるよう」命じられます。
三匹はいろいろな場所をうろうろして、夕方には帰ってきました。
いよいよ、日記の提出の時間です。
黒の書いた日記は、その名も『黒犬の元日』。厳かなタイトルとは裏腹に、こちらは少しとぼけた雰囲気の作風で、「足元にパンが一切落ちていましたが、食べようとはしませんでした。」などの、思わず何かしらツッコミたくなるような文章が笑いを誘います。
白の書いた日記は、その名も『青リボン日記』。こちらは洒落たタイトルですが、内容は基本、黒に対する悪口で構成されています。
最後に提出した、ぶちの日記は、その名も『小犬日記』。
「道に水たまりがあると、リボンがよごれないかと私は気になってなりませんでした。」
「花屋敷で私はしばらくの間、黒さん白さんにはぐれて心細うございました。」
と、非常に上品で奥ゆかしい様子です。
同じ日に同じところへ出かけていきつつも、三匹の見ている風景が少しずつ違っていたり、バラバラのことを考えていたりと、三者三様の異なる視点で日記が描かれているところがとても面白く魅力的です。視点が変わると一つの出来事がこんなにも違った世界に見えるのか、と当たり前のことではあるのですが、改めて驚かされます。
そして、最後に三匹は日記のご褒美にバター餅をいただくのですが、この、バター餅もとても美味しそう。
今回も与謝野晶子さんのお話は、お手伝いさんや乳母やお嬢様が登場し、高級感漂うお屋敷が舞台です。
時代背景や生活環境が違いすぎて、読み聞かせすると子どもから質問攻めにあいそうな絵本ですが、その違いさえも楽しみながら…また、時代をいくつ越えても変わることのない普遍的な部分を感じながら…ぜひ楽しんでいただきたい一冊です。