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oicchimouseの森の図書館員がめくるめく絵本の世界をご案内いたします。お子さまも大人の方もどうぞひと休みしていってくださいな。

夜の砂浜はお魚たちの社交の場『あたごの浦』

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【今日のおすすめ絵本】(対象…3歳頃から大人まで)

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『あたごの浦』

讃岐のおはなし

脇 和子・脇 明子 再話

大道 あや 画

福音館書店

 

 

(あらすじ)

前はとんとんあったんやと。ある、お月さんのきれいな晩のことや。

あたごの浦に、波がざざーっと、よせてはかえし、よせてはかえし、砂浜は、明るいお月さんに照らされて、キラキラ、キラキラと、光っりょったんやと。

〈本文冒頭ママ〉

ある晩、お月さんの光にうかれて砂浜へ上がってきた「おたこ」

おたこは、そこにあった畑に入って「おなすび」をちぎってはムシャムシャと食べ出します。

 

そこへ、同じように浜へ上がってきた「鯛」

鯛は、

「こらこら、おたこ、おまえはそこで、なにをしよんや」

と、おたこに声をかけます。

 

おたこは、

「へえ、おなすびちぎって、食べよります」

と、答えます。

 

鯛が、

「そうか。それもええけど、今晩は、お月さんがきれいなけん、ひとつ、魚どもを集めて、演芸会でもせんか」

と言うと、おたこは大喜びで波打ち際へ行って、大声で「おーい、演芸会するぞオー」と呼んで魚たちを招集します。

 

一斉に集まってきた大勢のお魚たち。

演芸会は歌ったり踊ったりの大盛り上がりです。

すっかり場が温まったところで、鯛がみんなに「かくし芸」の見せ合いを提案します。

みんなは大賛成で、自分の十八番の物真似を披露し合います。

 

エントリーナンバー1番の鯛は、浜辺の松の木にするするっとのぼって、松の枝にぴたっとはりつくと、

「松にお日さん、これどうじゃ」

と、言いました。

観客のみんなは感心して

「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)

とはやしたてました。

 

次々に魚たちが自分の芸を発表し、その度に観客のみんなは「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)とはやしたてます。

 

そしてお月さんがかたむいてきた頃、みんなそろって海の中へと帰って行きました。

最初から最後まで讃岐弁で語られているこちらの絵本。

声に出して読むと非常にテンポが良く、まるで何かの民謡を口ずさんでいるかのような音楽的な趣があります。

 

そして、本筋とはあまり関係のない、「海から上がってきたタコが畑に入って、なすびをムシャムシャ食べる」という珍しいシチュエーション。

読むたびに興味惹かれる場面です。実際にはタコはなすびを食べないようなのですが、なぜなんだろう…。タコとなすびの形が似ているからなのか…?

ちなみに、「タコは芋が好物で、海から上がってイモ畑のイモを盗む」という伝説があるそうなので、もしかしたら、こういった伝説から派生してきている描写なのかもしれません。

考えると面白いですね。

 

そして、鯛がリーダーシップを発揮する頼もしい姿や、タコや他の魚たちが鯛に敬語で喋っている姿も、どこかの会社の新年会の風景のようで、おかしみがあります。

 

また、読み聞かせで子どもたちが一番食いつくのが魚たちの決め台詞の

「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)

です。

辞書によると、「妙々」=妙々たる(とても優れているさま)。

つまり「いいね、いいね〜、めっちゃすごーい」的な意味のようですが、何かのおまじないのような呪文のような響きが、子どもたちには新鮮なようです。

 

月の光と波の音で、物語の世界が始まり、再び月の光と波の音で物語の世界から現実の世界へと戻ってくる、「行きつ戻りつ」の伝統的な昔話。

子どもの文学は「行きつ戻りつ」。

 

ざざーっとよせてはかえす波の音や、夜の海の風景、魚たちの素朴で温かな交流は、大人の心も穏やかなものにしてくれます。

ぜひ、楽しんでみてくださいね。

 

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