【今日のおすすめ絵本】(対象…小学校中学年から大人まで)
『こいぬとこねこは愉快な仲間』
ヨゼフ・チャペック 作・絵
いぬいとみこ・井出弘子 訳
河出書房新社
(あらすじ)
こいぬとこねこが仲良しで、一緒に暮していた頃のお話です。
ふたりは森の中に、小さいうちを建てて、一緒に住んでいました。そして、何から何まで、人間の大人たちがやるとおりに、やりたいと思っていました。〈中略〉
それにふたりは、学校に行っていませんでした。だって、学校は、人間の子どもたちのためにだけあるんですものね。
こんなわけで、こいぬとこねこのうちの中は、うまくいっている時もあれば、そうもいかず、時には、とてもちらかってしまうのでした。(本文冒頭ママ)
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サブタイトルは、「なかよしのふたりがどんなおもしろいことをしたか」。
ヨゼフ・チャペックが、素朴でちょっと間の抜けたような愛らしい挿絵とともに贈る、ユーモアに満ちた10話のお話です。
ときには、お話の中に、作者であるチャペック自身も登場し、こいぬとこねこと一緒に愉快なやりとりを繰り広げます。
「何から何まで、人間の大人たちがやるとおりに、やりたいと思って」、自分たちの知識や経験を総動員しながらいろいろと試してみる様子は、危なっかしくもありながら、どこか頼もしくもあり、幼い子どもたちのそれと重なります。
家が汚れていることに気付いた二人が床を掃除しようとするが、やり方がよく分からず、お互いをモップの代わりにして掃除するお話。
こいぬのお尻のズボンが破れてしまい、こねこが、紐と間違えて道端にいた「みみず」のお嬢さんでこいぬのズボンを繕うお話。
お店屋さんが赤ちゃんにサービスでくれる小さい旗をもらうため、こいぬがこねこを「おくるみ」にくるんで、買い物に行くお話。
チャペックさんに、こいぬとこねこが新しいお話のアドバイスをしに行くお話。(こいぬが、自分が魔法にかけられた王子、こねこが魔法にかけられた王女、というお話はどうかと提案すると、「のみ」だらけの王子はおかしい、とこねこが反論。こねこもこの間ポリポリ掻いていたと指摘され、「かゆいときに体をかいてなぜ悪い」と喧嘩になる。)
などなど、どのお話も読み終わるのがもったいないくらいの面白さで、読んでいると、なんだか自分もこの二人の仲間に入れてもらいたくなってきます。
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●作者であるヨゼフ・チャペックは、ボヘミア東部のフロノフ生まれ。祖母は、賢明でユーモアに充ちた性格で、孫たちに物語を聞かせ、母は読書家で、民謡、伝説、伝承物語の収集家で、これらの生い立ちが、チャペック作品の基礎になっているといわれている。
ナチスがチェコを脅かす予感の下で、反ファシズムの文化人の闘いに、ペンと筆で参加。そののち収容所に送られる。
最後は英軍による解放直前に、アンネ・フランクと同じベルゲン・ベルゼンの収容所(最も衛生状態が悪い)に送られ、そこで亡くなったと記録されている。(訳者あとがきより要約)
読者である子どもたちや、動物に対する温かい眼差しとユーモアにあふれた本作品から垣間見える作者の人柄。それと同時に彼がホロコーストの犠牲者であったこと。時代に翻弄された才能ある作家の無念を感じずにはいられません。
岩波少年文庫からも出ています。こちらは翻訳を木村有子さんが手掛けられています。⬇︎