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oicchimouseの森の図書館員がめくるめく絵本の世界をご案内いたします。お子さまも大人の方もどうぞひと休みしていってくださいな。

今日は村山籌子さん生誕120年記念日!『川へおちたたまねぎさん』

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【今日のおすすめ絵本】(対象…低学年から大人まで)

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『村山籌子作品集3 川へおちたたまねぎさん』

村山籌子 作

村山知義 絵

JULA出版局

 

 

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(あらすじ)

 

 

【こぐまさんのかんがえちがい】(『川へおちたたまねぎさん』より)

 

おねこさんが、持っていた赤いホオズキ。

 

 

おねこさんが、ホオズキの皮をむいて実を出すのを見て、どうしても欲しくなったこぐまさんは、自分の家の畑にホオズキの木があった気がして、「明日二つにして返すから、一つだけください。うちにホオズキの木があるの」と言って、おねこさんのホオズキを分けてもらいます。

 

 

こぐまさんは、うれしくてうれしくて、その晩一晩、ホオズキを手の中に入れて眺めたり着物を着せてお人形さんにして遊びます。

 

 

次の日、こぐまさんがおねこさんに返すためのホオズキをとりに畑に行くと、ホオズキの木だと思っていたのは、別の木だったのです...。

【月しゃのふくろをなくしたあひるさん】(『川へおちたたまねぎさん』より)

 

あひるさんはなきながら学校からかえってきて、おかあさんにもうしました。

 

 

「おかあさん、先生からいただいた月しゃのふくろをおとしたの。先生にしかられるといや。」

 

 

おかあさんはおっしゃいました。

「あひるさんや、カバンのなかをしらべてみて、なかったら、あした先生によくおはなしをなさい。」

そして、おやつのぎゅうにゅうをくださいました。

けれども、あひるさんはひと口ものみません。[中略]

 

そして、あひるさんはベッドのなかへもぐりこんで、「おかあさん、いますぐ月しゃのふくろをみつけてください。」と、わあわあなきわめきました。[後略](本文ママ)

以前ご紹介させていただいた『3びきのこぐまさん』と同じ、村山籌子・知義ご夫妻による『村山籌子作品集3 川へおちたたまねぎさん』です。

 

oicchimouse.com

 

 

表題作【川へおちた たまねぎさん】をはじめとするいくつかの短編と、童謡、絵ばなしが収められた贅沢な一冊です。

 

 

 

全体的にシュールな雰囲気が漂っておりますが、ただのシュールではありません。

 

 

 

村山籌子さんの素晴らしいところは、童話として未だ誰も扱っていない部分に、鋭く切り込んでいることだと思います。

 

 

 

それは日常の様々な場面において、子ども達が遭遇する、「小さな不安」です。

 

 

 

大きな問題事というものは、形がはっきりしているので、子どもも大人に具体的に説明しやすく、また、大人のほうでも、状況や心情を把握しやすいものです。

 

 

ところが、大人にとっては取るに足らないように感じられる出来事であったり…一見些細なことに思える問題が子どもの世界の中で時間の経過と共に、妙な形に入り組んでしまったり…ふとした拍子に抜け道の分からない複雑な不安の世界に放り込まれてしまったとき…。

そのことは大人の目には見えない上に、子どものほうでも問題の形が複雑で不鮮明であるがゆえ、説明の仕方も解決の方法も分からないのです。

 

 

 

子どもが密かにその小さな心を痛めていること。誰しも大人になると忘れてしまうけれども、確かに小さかった頃には感じたことがあるであろう「小さな不安」。それが引きおこす、心がしめつけられるような鈍く重い痛み。

 

 

霞のように捉えづらい、認識しづらいテーマを、これほどまでに鮮明に読者の前に掲示し、クリアにすることができる力量は、他に類を見ません。

 

そして、子どもたちのどんな小さな不安も見逃すことなく全てすくいとり、大きく優しい腕で包み込み、「絶対に大丈夫ですよ」と語りかけて安心させてくれるのです。

 

 

 

編集にあたられた、やまさき・さとし氏による、巻末掲載の〈編集のあとに〉によると、村山籌子氏の告別式で日本児童文学者協会を代表して猪野省三氏は、「多くの作家が戦争文化におもね、けがれた流れに身を投げかけて行った時に、あなたは純潔を守り通しました。〈中略〉子供に対する愛情が、こんなに清潔に結晶した作品は、他に求められないものでした。それは、あなたの人格が、どんなに清く尊いものであったかを示すものです。」と述べたそうです。

 

 

すべての子どもたちの目の前にいつもこのような本があれば、どれほどその小さく柔らかい心が救われるか。

大人になってから読むと、見失っていた視点に再び立ち帰ることができ、子どもの頃の小さな自分にもう一度出会える気がします。

 

 

村山籌子さん生誕120年の今、改めて読んでいただきたい傑作です。

 

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