『なめられたおじいさん』
うさみ・うさ 作
むかしむかし、あるところに気の短いおじいさんがいました。
おじいさんはよく山で動物を見つけては、仕事の途中でエサをやったりして育てていました。
あるよく晴れた日のこと、おじいさんは動物のエサを入れたお弁当を持ち、てくてくと仕事に出かけました。
仕事をしていると、「うーん、うーん」とうなっている声がします。
「どうしたのだろう。こんな山奥で、わしのほかに誰か人がいるのか?」
おじいさんがあたりを見てみると、草のかげに何かが横たわっています。
それは一匹のサルでした。
サルはおなかがすいているようで、今にも死にそうです。
おじいさんはかわいそうに思い、サルにエサをまいてやりました。
サルはそれを口にくわえ、逃げていきました。
サルは家に帰ると、おかみさんのサルと子ザルたちと一緒にエサを食べました。
そして、エサをやってくれたおじいさんのことを、家族に話しました。
「それで、おれに新しい家来ができたってわけだ。」
サルは言いました。
「まあ!すごいじゃあありませんですか。これで、食べ物に困ることも、飢え死にしそうになることもありませんもの。」
おかみさんのサルは喜びました。
「おとうさん、ぼくたちにもそのニンゲンに会わせてくれ。」
子ザルの猿一(さるいち)が言いました。
「だめだよ。やつは、山にいるライオンとも知り合いだっていうじゃないか。友だちが言ってたよ。」と猿二(さるじ)。
「ライオンなんていたら、私たち食べられちゃう。」猿三(さるみ)も言いました。「でもそのニンゲンは、うさぎとも仲がいいんだよ。」と猿四(さるし)が言うと、「おいしそう!」と末っ子の猿五(さるご)がさけびました。
そして子どもたちは、踊りあがって、〈サルのえさの歌〉を歌いました。
〈サルのえさの歌〉はサルの子に大人気の童謡なのです。
サルのサルのサルのえさ
おいしいおいしいサルのえさ
えさを見たら顔が真っ赤になる
えさを食ったらほっぺが落ちる
サルのえさ
そしてサルが眠る時間まで、歌い踊り明かしたのでした。
次の日、サルが山を歩いていると、またあのおじいさんがいました。おじいさんは今日も山の動物たちに囲まれて、「エサをくれ」とせがまれています。
「おじいちゃん、エサをちょうだいよぉ。」まつ毛の長い、可愛いうさぎが言いました。
「おい、おっちゃん。エサ、くれ。」ぷっくり太ったブタもたのみました。
「やーん、やーん、アタシのご飯が先なんだから。」中には山の精も混ざっていました。
ほかにも木の精、牛、クマ、イノシシ、とさまざまな動物たちや精霊たちが、おじいさんのまわりに集まっていました。
「こりゃ、すごい。動物だけじゃなく精霊まで…。」サルは驚きました。
そして、自分も、「おーい、じいさん、早く早く。」と呼びました。
次の日も、そのまた次の日も、サルはおじいさんにエサをもらいました。
そんなある日、サルは友だちの牛と、もらったエサを見せ合いました。
すると、どうでしょう。サルのエサの方がほんの少し、少ない気がしたのです。
「でもさすがに、うさぎよりは多いだろう。」
サルはうさぎともエサの量を比べました。すると、今度もやっぱりうさぎの方が多く感じたのです。
「さあ、大変だ。こりゃあ、あの家来のじいさんが、わざとおれのを少なくしたに違いない!」サルはひどく怒りました。
そして、ところどころで地団駄を踏みながら、いつもより真っ赤な顔で、おじいさんの方へ向かっていき、「なんで、おれだけ少ないんだ!」とだけ言うと、『ガブリ』とやりました。そして遠くへ行ってしまいました。
これにはおじいさんの方も怒りました。「いつもエサをやってやってる人に、かみつくやつがあるか!」と怒鳴ると、怒って家へ帰ってしまいました。
「おじいちゃん、一体そんなに怒って、どうしたのよ。」と上の孫が聞きました。
「うるさい!」と短気なおじいさんは答えました。
「ちょっと聞いただけなのに。ひどいわ!」上の孫はさけびました。
「おじいちゃんが怒るといつも怖いじゃないの。話しかけないのが一番。いきましょ、おねえちゃん。」下の孫はそう言って、上の孫と一緒にどこかへ行ってしまいました。
次の日、おじいさんは太い「むち」を持って山へいきました。
サルを懲らしめるためです。
おじいさんはサルをむちで叩こうと思っていました。
そして、山に着くと仕事も忘れてサルを探しはじめました。
でもサルは見つかりません。
木の精に聞くと、「サルさんは海の方へ逃げてらしたわよ。おじいさまが、むちを持ってうろうろしてるのを見つけたからよ。」と教えてくれました。
「ありがとう。」
おじいさんは礼を言うと、一目散に家へ向かい、ボートをひっつかむと、海へこぎいでてゆきました。
すると、前の方にサルがクロールで逃げているのを見つけました。
おじいさんは、ぐんぐんスピードを上げ、ついにサルに追いつき、むちで思い切り叩きました。
サルは「ギャー!痛い!」と叫んでバタバタ足を動かしましたが、ついに沈んでしまいました。
それからあと、サルはおじいさんにかみついたりしなくなりました。それどころか、ご飯をもらうときは、「おじいさま、ありがとうございます。」ととても丁寧に礼を言うようになりました。
「サルになめられなくなって良かったよ。」おじいさんはつぶやきました。
おわり