〈台風〉
ある夜
お父さんは公園のブランコに乗った
ブランコを激しくこいで右足の靴を高く飛ばした
右足の靴は 高い松の木のてっぺんに引っかかった
お父さんは右足の靴をとるためにブランコを降り 左足の靴を松の木めがけて投げた
すると左足の靴も 松の木のてっぺんに引っかかった
お父さんは裸足のまま家に帰った
あれから4ヶ月が過ぎた
公園の松の木の前をとおったら
お父さんの靴が あいかわらず引っかかっていた
靴はすっかり松の木の上に馴染んでいる
野性味にあふれて
台風の風は強いけれど、松の木からお父さんの靴が落ちてくることはもうないだろう