〈銭湯〉
「この間、教えてくれたやつ買ったわよ。」
「あらそう。どうだった?」
「すごい効いたわよ、ありがとう。」
「ちょっと高いんだけどねえ。」
ガラガラガラ
「お母さん、ロッカーの鍵持っていい?」
「ダメダメ。前に渡した時に振り回してどっかに失くしたでしょ。」
「でも見つかったよ。」
「だって、見つからなかったらお母さん、はだかんぼで受付まで行かないといけなくなるから、そんなことになったら大恥だよ。」
「その時は私もはだかんぼだから同じだよ。」
「同じだったら、親子そろって大恥かくよ。」
「ああ、そうか。でも、今度こそ失くさないから信じて。」
「もう、仕方ない子どもだね。ちゃんと手首につけて絶対に外さないでよ。」
「分かった。」
ガラガラガラ
「ああ、お久しぶり。この間はありがとうね。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「ここは新しい人が多いわね。」
「ええ、比較的いつもそうなんです。」
ゴシゴシゴシ
ザバーン
「ちょっと、先お湯に浸かってくるね。」
「絶対に走らないでよ。滑るからね。」
「分かってるよ。」
ゴシゴシゴシ
ザバーン
「さて、私もお湯に浸かるとするか。」
「ねえねえ、そろそろ出よう。」
「嫌だよ、まだお母さん一回もお湯に浸かってないんだから。少し涼んでごらん。」
「仕方ないなあ。」
「見てごらん、天井がものすごく高いよ。」
「ほんとだねえ。気持ちいいねえ。」
「壁には菖蒲の絵が描いてある。」
「こどもの日みたいだねえ。」
「もう出よう。のぼせる。」
ジャバーン
「シャワーを浴びてからね。」
「うん。」
「そうそう、ちゃんと座ってね。」
ガラガラガラ
「ほら、鍵失くさなかったよ。」
「確かに。立派になったもんだね。」
「ねえ、ポカリ買って。」
「いいよ。お母さんはオロナミンCにしよう。」
「お父さんはまだ来ないね。」
「お父さんは長風呂だよ。」
「ああ、美味しい。最高だね。」
「体ほかほかしているね。」
「ね。ちょっとビン置いてくるわ。」
カチャン トン
「お母さん、タオルのレンタル20円だって。購入は289円だって。」
「どこに書いてるか見えないけど、そうなんだねえ。」
「私なら購入にするよ。割合的にその方が特だから。」
「なるほど。」
「お父さんが出てきたよ。」
「男湯で誰かよその小さい子が、お父さんのことを自分のお父さんと間違えて抱きついてきたよ。」
「へえ、面白いね。」
「珍しいこともあるね。」
ガラガラガラ
「外の風が気持ちいいね。すーっとするね。」
「体がほかほかしてるから上着もいらないわ。」
「あとは、家に帰って寝るだけだ。」