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oicchimouseの森の図書館員がめくるめく絵本の世界をご案内いたします。お子さまも大人の方もどうぞひと休みしていってくださいな。

【大人の読書時間】秋の夜長にコーヒー片手にまったり読みたい本10選

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こんばんは。

 

 

首のヘルニアと自律神経の乱れで睡眠不足のoicchimouseです。

 

 

 

日中は相変わらず汗だくですが、朝夕は段々と涼しくなってきて、時折、金木犀の香りが夕風に乗って鼻先をかすめます。

 

 

 

こんな素敵な秋のはじまりは、ちょっぴり夜ふかしして、コーヒー片手にまったり夜の読書はいかがですが?

 

 

 

 

 

というわけで、今日のテーマは『秋の夜長にコーヒー片手にまったり読みたい本10選』

です。

 



 

『文鳥・夢十夜』夏目漱石

夏目漱石のエッセイ集のような本です。

昔どこかで聞いたことがあるような怪談話的な雰囲気のものから、漱石と、その弟子や友人たちとの滑稽なやりとりなど、ちょっとした休憩に読むのにぴったりなお話が収められています。

漱石が、日常の中で「面白い」と感じているツボは他の小説でも垣間見ることができますが、この作品ではそれがより顕著に表れています。

教え子の鈴木三重吉から強引に文鳥を勧められ、仕方なく飼い始めたが、もともと寝坊助なため、徐々に朝起きるのも面倒になり、世話が雑になっていく様子はちびまるこちゃんを彷彿とさせます。

 

 

 

 

 

『白の咆哮』朝倉祐弥

〈土踊り〉の受入れをかたくなに拒否し、一定の距離を保ちつづけた集団は、わたしたち入植者がいちばん最後だと言われている。」原文ママ

ある時、北陸地方の山間部で〈土踊り〉と呼ばれる謎の踊りがひっそりと産まれ、その踊りは瞬く間に他の地方にまで広がっていきます。

この小説の語り手である、雑誌の元記者であった「わたし」は、〈土踊り〉とは対極にある、〈入植者〉と呼ばれる人々の仲間に入り、やがて両者の攻防に巻き込まれていくのですが…。

こちらは、近年稀に見る非常に難解な小説です。

まだ比較的お若い作家の方ですが、凄まじい文章力です。
あまりの難解さに、最後まで読むことを諦めてしまう読者の方も発売当時多かったとのこと。

 

私も読みながら、時々脳が思考停止するのを感じましたが、混乱してきたら少し戻って…という風に、一歩進んで二歩下がりながらどうにか読み切ることができました。

 

大変な序盤さえ乗り越えれば、あとはどんどんおもしろくなってきます。偶然にも今の日本社会と重なる部分が多々あり、いろいろと考えさせられます。

 

朝倉さんは、この小説ですばる文学賞を受賞されましたが、純文学にありがちな過激な表現描写や、小手先の技術を一切使わず、既存の純文学に正々堂々真っ向から立ち向かっておられる様子が伝わってきて、とてもかっこいいのです。上品さと土着的な雰囲気を併せ持つ稀有な作品です。

現在は作品を出されていないようで、こちらの本も残念ながら今はどうやら絶版のようです。

優れた芸術と資本主義の共存は永遠のテーマですね...。 

 

 

 

 

『人間そっくり』安部公房

ある日いきなり火星人が家に訪ねてきたらどうしますか。

私なら、おいしい緑茶と雪見だいふくをお出しします。火星人はお茶の時間に一体何を飲むのでしょうね。

でもこのお話はそういったのんきなこととは違います。訪ねてくるのは楽しい火星人ではなく、不気味な火星人です。

徐々に不条理の世界に巻き込まれていき、最後には大どんでん返しが待っています。

oicchimouseも「人間そっくり」なんですよ。

 

 

 

 

『アイヌ神謡集』知里幸惠


「アイヌの一少女が、アイヌ民族のあいだで口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、ローマ字で音を起し、それに平易で洗練された日本語訳を付して編んだのが本書である。」
岩波文庫表紙より  原文ママ

感想を述べることすら畏れ多いような本です。詩のような物語のような、大自然と共に生きてきたアイヌの人々の美しい魂の姿です。現代に生きる私たちがこの神謡の全てを理解することは困難ですが、力のある言葉の数々が読んだ者の心の中に川のように流れ込んできます。その不思議な感覚をぜひ味わっていただきたい作品です。

 

 

 

 

『初期幻想傑作集 夢の器』原民喜

「原民喜といえば被曝文学」というイメージをお持ちの方が多いかと思いますが、こちらは戦前に書かれた初期の作品で、これまでの原民喜のイメージが一気にくつがえります。文体は上品でまるで小川が流れているよう。

幻想的で近未来的で、どこかSFのような雰囲気もします。
宇宙の向こうの話を読んでいるような、現実の側にあるもう一つの世界を見ているような。


読み始めると一気に不思議な世界に引きずり込まれます。
宮沢賢治、安部公房、星新一、カポーティなどが好きな方におすすめです。

 

 

 

 

『思考の整理学』外山滋比古

AI時代へと突入した今、改めて読みたい名著です。

著者の体験を交えつつ、ユーモアが散りばめられた文体は、ともすれば堅苦しくなりがちなテーマを軽やかで親しみやすいものへと昇華しています。

今から40年近く前に出版されたものでありながら、全く古さを感じさせず、現代にも十分生かせることばかり。まるで今の世の中を見て書いたのかと思えるほどです。

グライダー人間でなく飛行機人間になるにはどうしたらよいか?

さあ、外山先生の『思考の整理学』の授業のはじまりです。

 

 

 

 

『アメリカ・インディアンの書物よりも賢い言葉』エリコ・ロウ

アメリカ在住の日本人女性エリコ・ロウさんが、部族の長老や賢者たちから直接伝授された智恵の数々が収められた一冊。本によると、アメリカ・インディアンと日本人は遠い祖先を同じくするとも言われていて、似たような風習も多いそうです。

根底に流れているものが、前述の『アイヌ神謡集』とよく似ているような気もします。

 

ひとは山と蟻の中間だ。

ひとの暮らしに疲れたら、自然に還る。

どんな動物もあなたよりずっと多くを知っている。

子供や老人の発想から学ぶ。

食べている子供に語れば、親が去った後にもその記憶は残る。

こころからの言葉は書物より尊い。(本文より抜粋)

 

紹介されている格言にハッとさせられます。日常に疲れた時にぜひ読んでいただきたいサプリメント的作品です。極上の癒しをお約束します。

 

 

 

 

『センセイの鞄』川上弘美

谷崎潤一郎賞受賞の川上弘美の傑作『センセイの鞄』。

これぞ「ベストオブ・秋の夜長」といえる小説です。

駅前の居酒屋で再会した高校時代の国語教師である「センセイ」と教え子の現在37歳のツキコさん。

再会をきっかけに二人は仲良くなり、色々なところへおでかけしたり、一緒に遊んだり、飲みに行ったりします。

二人の間に流れる空気は淡々として、ゆったりとして、時にシュールであたたかい。

川上さんの作品の主人公はいつも、どこか大人になりきれていない子どものような大人。大人子ども。大人の皮を被った子どものような雰囲気です。

ジャンルとしては恋愛小説なのでしょうが、どことなく若者と中高年のはざまである年齢に身を置く女性の、モラトリアム小説としての一面も併せ持っているような気がします。

二人が「キノコ狩」に行くお話も入っていて、秋をリアルに感じられます。

 

 

 

 

『詩集 孔雀のパイ』ウォルター・デ・ラ・メア

〈小さな緑の果樹園〉

小さな緑の果樹園に、
いつもだれかがすわっている。
真昼どき、くもひとつない空に
たかく太陽が輝いているとき、
バラからバラへとミツバチが、
かすかなうなりをあげてとぶとき、
小さな緑の果樹園の
木かげにだれかがすわっている。…
[後略]

(『詩集 孔雀のパイ』より本文ママ)

毎夜、眠りにつく前の静かな時間に一つ。

おとぎ話の世界のような、日常のふとした一コマのような。

時間の流れを、味わい深いゆっくりなものにしてくれる、ちょっとおしゃれで素敵な詩集。

 

 

 

 

『百鬼園随筆』内田百閒

漱石門下生の内田百閒先生。

こちらは短編構成なので、ちょっとした空き時間にも読みやすい。

装丁の絵は芥川龍之介氏の「百閒先生邂逅百閒先生図」。芥川氏の百閒先生への親しみがとてもよく伝わってくる良い絵です。

百閒先生が、お洒落で髭を生やしたら、おばあちゃんに「剃っておしまい。いうことを聞かぬと、寝た間にむしってしまう」と言われ、剃れば、友人に「恐ろしく大きな顔をしていますね。どうしたんです」と聞かれる…。

 

風邪が流行るからと、祖母主導でおまじない(桟俵の上に祖母、母、百閒が一口ずつかじった沢庵のしっぽを乗せ、歯形のあとに息を吹きかけて出来上がった、まじない道具「さんだらぼっち」を川に流しに行く)が行われ、百閒が出来上がった「さんだらぼっち」を川に流しに行くと、お米を研ぐような不気味な音がする…。

 

これにはoicchimouseも読みながら思わず笑い泣き。

 

早く次を読みたいという急く心を抑えつつ、隅々まで文章を味わいながら読みます。

一日の頑張ったご褒美に一粒、二粒。

何気ない日常の中に見え隠れする「奇」が、巧みな文章によって浮き上がってくる最高の一冊です。

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

部屋の明かりをちょっぴり落として、窓を少し開けて、夜風を感じながら読書するひとときは格別ですよ。

 

素敵なひと時をお過ごしくださいね。

 

 

 

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子どもの頃の自分に会える本『子どもという世界』

【今日のおすすめの本】(対象…かつて子どもだったすべての大人)

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『子どもという世界』

キム・ソヨン 著

イム・ジーナ イラスト

オ・ヨンア 訳

かんき出版

 

 


児童書の元編集者で、現在は読書教室をされている、キム・ソヨンさんの、『子どもという世界』。

 

 

 

 

育児書や子育て本とも違う、子どもの世界を丁寧に見つめて描き出されたエッセイです。

 

 

 

キム・ソヨンさんご本人はDINKsですが、読書教室を営む中で出会ったたくさんの子どもたちとの会話や交流を通して、「目の前にある子どもの世界」と、かつて子どもだった「自分の中にある子どもの世界」を行ったりきたりします。

 

 

 

 

「『今どきの子たちは遊ぶ時間がない』『友だちがいない』『ゲームばかりしている』と嘆く大人たちもいる。そこまで気の毒がっておきながらも一方では、もう今更どうすることもできないとでも思っているようだけれど、子どもの立場はそうじゃない。大人たちの幼少時代とは、環境もずいぶん変わったとはいえ、子どもたちが遊びたいという事実には変わりがない。どうにかして遊ぶ時間を捻出して友人たちを呼び何かをしながら、子どもたちは遊ぶ。」(本文ママ)

 

(子どもについて)

「子どもの『盛っている話』には無視することも、笑うこともできない魅力がある」

「長くて3、4年前のことを、思い切り「昔」だと言う」(本文より)

「大部分の育児書が『子どもの個性を尊重せよ』と強調するが、どうして親の個性は尊重しないのか?」(本文より)

 

 

 

 

などなど、気になる言葉、心に留めておきたい言葉がそこかしこにあふれていて、付箋がいっぱい。

 

 

 

子どもの遊びをとりまく環境については、私はまさに嘆いている大人の一人でした。

 

 

  

でも、子どもの日常の楽しかった話を思い返してみると、確かに子どもたちは、子どもたちなりに遊んでいる。

 

 

 

 

学校のトイレのあまり使われていない古い個室を秘密基地にして、毎日みんなで学校の先生たちの噂話を情報交換したり、入る時にはドアの下の隙間からつま先を少し滑り込ませて、上履きに書いている名前とクラスを中にいる子どもに見せることで入館証がわりにしたり…とそれなりに楽しく工夫して遊んでいるようです。(このことは子どもたちだけの秘密の集まりだそうなので、誰にも言わないでくださいね)

 

 

 

 

著書の中で触れられている、「遊びと遊ぶことの違い」

 

大人が子どものために開催するイベントは、「遊び」と名前がついているけど、それは何か違う。

砂と遊ぼう、書店で遊ぼう、経済で遊ぼう…実際は教育目的なのに名前だけ「遊び」とつけたプログラムにも、著者は、違和感を抱いています。

 

 

 

 

エッセイを読み進めていると自分がだんだん小さくなっていくような、子どもに帰っていくような、不思議な気分になります。

 

 

 

なんだかうまく空気が読めなくて肩身が狭いような気持ちになったこと。

 

習い事の帰り道にあるトンネルがものすごく大きくて暗くて長く感じていつも走り抜けていたのに、大人になってから訪れると、まるでただのほら穴のように小さくて短かったこと。

 

家庭と学校だけの世界が世の中の果てまで続いているように感じるくらい自分が小さかったこと。

 

ページをめくるたびに忘れていた小さい自分の記憶(心)が次々と蘇ります。

そんな心にそっと寄り添ってくれるような、ほっこりとあたたかい文章。

 

 

 

 

キム・ソヨンさんのような大人が子どもたちのまわりにたくさんいてくれたらどんなに素晴らしい世の中になることか。

 

 

 

著者の豊かな語彙のおかげなのか、今までぼんやりと感じていた子どもをとりまく社会への、説明できないような違和感なども、はっきりと目に見えてきます。

 

 

 

 

子育て中の人もそうでない人も、かつて子どもだった全ての大人の方にぜひ…というか、絶対に読んでいただきたい作品です。

 

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ドラえもんの『おかし牧場』と、ごさくの『だいふくもち』

【今日のおすすめ絵本】(対象…小学校低学年から大人まで)

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『だいふくもち』
田島征三 作
福音館書店

 

 

みなさんは2020年8月1日放送のドラえもんの内容を覚えていますか?

 

 

「プッシュドア」と「おかし牧場」の二本立てだったのですが、この後者の「おかし牧場」という秘密道具、どういうものかと申しますと…

 

 

 

 

〈ひさしぶりに大きなチョコレートを手に入れ、大よろこびののび太は、 「食べてもなくならないチョコレートがないかなぁ」とつぶやく。それを聞いたドラえもんは、ポケットから『おかし牧草』を取り出す。これを使うと、牧場で牛などを飼(か)うように、チョコレートなどのおかしを飼うことができるのだという。
 さっそくおかし牧草の上にチョコを置いたところ、なんとチョコが動き出し、牧草を食べ始め、牛のように鳴き出したからビックリ! ドラえもんがかくしておいたチョコも牧草の上に置いたところ、2ひきのチョコがなかよく動き始める。
 その後、少し外に出ていたのび太が帰ってくると、チョコが動かなくなっていた。もどってきたドラえもんによると、1時間以上牧草を食べさせないと、ただのチョコに戻ってしまうのだという。
 しかし、夜中に1時間ごとに牧草を食べさせることはむずかしい…。そこでドラえもんは、空き地におかし牧草の種をまき、チョコを放し飼いすることにするが…!?〉
TV朝日ドラえもんHPより引用
原文ママ 以下URL

https://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/story/0614/

 

 

 

こういった非常に夢のあるお話でありながら、「チョコが動き出し、牧草を食べ始め、牛のように鳴く」という、何ともシュールで異様な雰囲気もあわせ持った神回なのですが、私がこのドラえもんを見て、真っ先に思い浮かんだのがこちらの『だいふくもち』という絵本です。

 

 

(あらすじ)

 

ごさくは、これといった仕事もせず、毎日ぐうたら暮らしていました。

 

 

ある夜、床の下から「ごさく はらが へったぞ。なんか おおせ」という声がするので、床をめくってみると、白いまんまるいひしゃげただいふくもちが、しゃべっていました。

 

 

だいふくもちに言われたとおり、小豆をだいふくもちの上に乗せると、だいふくもちは小豆をくるみ、おいしそうにかんでいましたが、そのうちに、ぽこんと小さいだいふくもちを産みました。

 

だいふくもちが産んでくれるだいふくもちで商売をはじめ、大成功をおさめたごさくでしたが…

田島征三さんの迫力ある絵や土佐弁の語り口が、お話の謎めいた雰囲気と非常にマッチしています。

 

 

そして、ドラえもんの「おかし牧場」と比べると、全体的に暗〜い雰囲気です。(笑)

しかし、この暗さは嫌な暗さではなく、心地よい暗さなのです。

 

 

ラストも暗く、決してハッピーエンドではないのですが、何とも言えない味のある魅力に、一度読むとすっかりとりこになってしまいます。

 

 

幼稚園くらいのお子さんにはあまり向きませんが、小学生くらいのお子さんはとても喜びますし、大人が読んでも「おぉ…」となります。

 

 

 

ドラえもんの「おかし牧場」と合わせてぜひ…。

 

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学校の中のあちこちに点在するファンタジーの扉『ふしぎの時間割』

【今日のおすすめの本】(対象…小学校中学年頃〜)

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『ふしぎの時間割』
岡田淳 作・絵
偕成社

 

 

 

(あらすじ)

 

これは 

いくつかの小学校の 

それぞれの季節 

それぞれの時間のお話ー

 

〈もくじ〉

朝…五つめのおはようとはじめてのおはよう

一時間目…ピータイルねこ

二時間目…消しゴムころりん

三時間目…三時間目の魔法使い

四時間目…カレーライス三ばい

五時間目…石ころ

六時間目…〈夢みる力〉

放課後…もういちど走ってみたい

暗くなりかけて…だれがチーズを食べたのか

夜…掃除用具戸棚



授業中、床の割れ目に消しゴムを落とした女の子。

 

床の割れ目からその消しゴムを持って出てきたのは1匹のヤモリ。

 

ヤモリは、特別に他にもう一つ消しゴムをくれました。

 

それは、『本当でないこと』だけ消せる消しゴムでした…

(消しゴムころりん)

 

 

飛んでいったボールを探している途中、「としお」が体育倉庫の裏で出会った不思議な雰囲気のおじいさん。

 

百葉箱にもたれて地面に座りこんでいるおじいさんは、としおに自分のことを「何者だと思うね。」とたずねます。

 

「まさか、魔法使いじゃないでしょ。」と答えるとしおに、おじいさんは「魔法使いだったら、どうする。」と言います…。

(三時間目の魔法使い)





いろいろな学校での一場面を切り取ったオムニバスストーリーで、時間割形式で区切られているので、長編に慣れていないお子さんにも読みやすい本です。

 

 

学校という超現実的な世界。

 

 

そこでちょっとした不安を抱えていたり、迷いがあったり、いろいろな方向に心が揺れ動く成長途中の子どもたち。

 

 

 

そんな子どもたちがふとしたきっかけで少しだけ迷い込む不思議な世界。

 

 

 

5分、10分ほどの不思議な世界はすぐに消えて、子どもたちは再び現実世界にもどりますが、そこにいる子は5分、10分前と同じではありません。

少し心が成長しているのです。

 

 

 

ファンタジーのようでファンタジーではないような、現実とファンタジーの絶妙な境目が描かれています。

 

 

 

子どもたちの目から見えている学校での日常は、意外とこんな風に現実とファンタジーが入り混じったカオスな世界なのかもしれません。

 

 

作家活動と共に、定年退職まで教師を勤め上げられた岡田さんだからこそ描き出せる、学校という空間が持つ独特の気配と、その中に身を置く成長途中の子どもたちの複雑な心の機微。

 

 

 

それら全ては本当にリアルで、岡田作品に触れた子どもたちがあっという間にファンになってしまうのも納得です。

 

 

 

長い夏休みが終わり、学校の始まりがちょっぴり不安な子どもたちにぜひ、読んでいただきたい一冊です。

あなたが通っている学校の裏側にも、隠されたもう一つの学校の姿があるかもしれませんよ。

 

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わらむすめに鳥人間?アニタ・ローベルの名作『わらむすめ』

【今日のおすすめ絵本】(対象…5歳頃から)

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アニタ・ローベル 文と絵

松井るり子 訳

セーラー出版

 

 

 

(あらすじ)

 

大きな森のはずれの古い家に住む、父さんと母さんと一人娘。

 

家族は一生懸命働きますが、暮らしぶりは貧しく、ついに食べ物が尽きてしまいます。

 

娘は、家族のために市場へ行き、雌牛を売って食べ物を買うことにしました。

 

ところが、市場へ行く途中の暗い森の中で娘は3人の泥棒に誘拐されてしまいます。

 

泥棒の家に閉じ込められた娘は、掃除、泥棒の服へのツギあて、晩ご飯の用意、を毎日させられました。

 

父さん母さんを思って泣きながら働く娘でしたが、ある日、娘はいいことを思いつきます。

 

娘は藁で「わら人形」を作り、自分の服を脱いで、わら人形に着せ、「わらむすめ」を作りました。

 

それから壺に入った蜂蜜を自分の体中に塗り付け、羽根枕の中の羽根をすっかりふるいだし、その中を転げ回り、大きな鳥のようになりました…。





挿絵では娘が作った「わらむすめ」は完全に藁の人形ですし、娘が体中を羽根で覆った姿は「大きな鳥」ではなく、完全に「鳥人間」もしくは「鳥の羽根をまとった人間」です。

 

ところが泥棒たちは、「わらむすめ」を間近で見ても、最後まで本物の娘だと見破ることはできず、羽根だらけの娘とすれ違っても「なんてふしぎな トリだろう」と言っただけで、「鳥である」ことには一切疑いを持ちません。

 

娘の服を着れば、それはもう娘。鳥の羽根をまとえば、それはもう鳥なのです。

 

ドイツ文学者の小澤俊夫さんの著書では、昔話では「皮」が全て、というようなフレーズがよく出てきますが、こちらの絵本は、アニタ・ローベルさんの創作でありながら、非常に昔話的な要素もあって興味深い一冊です。

 

アニタ・ローベルさんは、『がまくんとかえるくん』のシリーズでお馴染みのアーノルド・ローベルさんの元奥様としてもよく知られていますが、どの作品も、絵やストーリーに温かみがあふれています。

 

ぜひ、他の作品も手にとってみてくださいね。

 

 

 

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呪文を唱えると実が落ちてくる不思議な木『ごちそうの木』

【今日のおすすめ絵本】(対象…4歳頃から)

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『ごちそうの木』

タンザニアのむかしばなし

ジョン・キラカ 作

さくま ゆみこ 訳

西村書店

 

 

(あらすじ)

むかしむかし、動物たちが一緒にくらしはじめた頃、日照りが長く続いたことがありました。

 

作物がとれず、みんなおなかがペコペコ。

 

からからの大地の真ん中には不思議な木が1本立っていました。木には汁気たっぷりの熟した実がたくさんついていましたが、いくら木をゆすっても、実は落ちてきません。

 

みんなで話し合った結果、どうやったら実が落ちるのか、賢いカメに聞きに行くことになりました。

 

そこで、「私が聞いてきますよ」とノウサギが名乗り出ましたが、みんなは、ノウサギが小さいことを理由に、無理だと決めつけ、大きい動物に任せるよう言います。

 

大きい動物は次々にカメのところへと出かけていき、カメから実を落とすための「呪文」を聞いてくるのですが……。

 



 

タンザニアの昔話です。

 

 

『いちばんのなかよし』という作品でボローニャ国際児童図書展ニューホライズン部門ラガッツィ賞を受賞した、タンザニアの絵本作家ジョン・キラカさんが、ティンガティンガアート(アフリカのポップアートの流派)と呼ばれる独特の手法をもちいて描いたポップな絵本です。

 

 

「特別な呪文を唱えると実が落ちてくる不思議な木」のお話はアフリカ各地にその類話が多数存在するそうです。

 

 

 

ちなみに、こちら、『ふしぎなボジャビのき』も類話の一つです。⬇︎

 

 

 

 

動物たちの服装は色とりどりで個性的。


表情も豊かでとても明るく愉快な雰囲気です。

 

絵をよくよく見ると、ライオンがしっぽの先をズボンの後ろポケットに収納していていたり、カメが甲羅の上からシャツを着ていたり、みんなが揉めているときに、ネズミだけが、足元で仮眠をとっていたり……

 

と、本文とは、直接関係ない部分にもそこかしこにユーモアが散りばめられており、「絵を読む」楽しみがあります。

 

 

ところで、体の大きい動物が小さい動物の能力を軽く見て、結局は、大きい動物にできなかったことを小さい動物が簡単にやってのける、という描写は、もしかしたら

 

大きい動物=大人
小さい動物=子ども

 

の暗示なのかな…?とも思いました。

 

 

それにしてもこの絵本を読んでいるとなぜだかクッピーラムネが食べたくなってくるのは私だけでしょうか。

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Once upon a time…『知られざる昔話の世界』

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こんにちは。oicchimouseです。

 

 

みなさんは、日本には昔話がいくつくらい存在しているかご存知ですか?

 

 

桃太郎、一寸法師、浦島太郎……。実は、絵本になっているような有名な昔話は数多ある昔話のほんの一部。

 

 

関敬吾氏著の『日本昔話大成』には、約34000〜35000。

稲田浩二氏・小澤俊夫氏によって『日本昔話通観』にまとめられた昔話の数は6万話にのぼります。

 

 

また、上記のような学者の方々によって収集されていない埋もれたままの昔話も含めると、実際の数は、これらをさらに上回るものと思われます。

 

 

 

昔話の世界は非常に奥が深く、国内のあちこちに数えきれないくらいの類話があったり、それが国外の様々な国々ともつながっていたりと、読めば読むほど興味が深まっていく、非常に面白いものです。

 

 

 

そこでおすすめなのが、小澤昔ばなし研究所から出版されている、『子どもに贈る昔ばなし』のシリーズです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは昔話本来の、単純で明快な語り口を守った再話の方法を習得した人たちが、子どもに贈る昔ばなし集です。

(絶版になっているものや、中古で価格が高騰しているものもあるのが残念です…。)

 

 

 

収録されている昔話をちょっとご紹介。

 

「鬼を買った夫婦(愛知)」

『がまの皮』より

むかし、あるところに、お百姓の夫婦がいた。

ある朝早く、まだふたりが寝ていると、「鬼はいらんか、鬼はいらんか」という声がした。

 

(まあ、めずらしい)と思って外に出てみると、男がいっぴきの大きな赤鬼をかごに入れて売りあるいていた。

 

「鬼を売ってどうせるだ」と、たずねると、男は、「この鬼はめしだけ食わしとりゃあ、どんな仕事でもしてくれる。朝早くから畑でも田んぼでもつれていきゃあ、いっしょうけんめいはたらくで。金はいくらでもいいで」といった。

 

夫婦は、「ほいじゃ、仕事がつかえて、草ぶかでこまっとるで、そんないい鬼ならひとつもらっとこうか」といって、その鬼を買うことにした。………

(冒頭本文ママ)

 

 

「きんぷくりんとかんぷくりん(和歌山)」

『きんぷくりんとかんぷくりん』より

 

(あらすじ)

昔、あるところに代官がいました。

代官のところへ漁師が魚を1匹持ってきました。

 

ところが、代官は魚の名前がわかりません。

漁師も、初めてとった魚なので名前がわかりません。

 

そこで、代官は「魚の名前を知っているものには五両のほうびをとらせる」と書いた張り紙をあちこちに出しました。

 

すると、一人の男が名乗り出て「代官さま、これはとてもめずらしい魚です。名前は『きんぷくりん』です。」と言いました。

 

代官は変な名前だと思いながらも、男が名前を知っていたので、ほうびをとらせました。

 

しかし、男が、帰ってからよくよく考えてみると、やっぱりおかしい。

 

「『きんぷくりん』などというおかしな名前、あるはずがない。」

 

代官はしばらくしてから男を呼び出して、もう一度魚の名前を聞くことにしました。同じ名前を言わなかったら、ほうびをとりあげて、こらしめてやろうと思ったのです。

 

月がたって男が呼び出され、また代官から魚の名前を聞かれました。

 

しかし、男はでたらめに言った名前だったので思い出せません。

 

(「ぷくりん」とか「ぽくりん」とか言ったんだけど上につけた言葉が思い出せない。また、でたらめを言っておこう)ということで、「代官さま、この魚は『かんぷくりん』という名前です」と言いました。

 

すると、代官は「この前は、『きんぷくりん』と言ったのに、この嘘つきが!」と激怒し、男は、打首になることになりました。

 

申し開きも一切聞いてもらえないので、男は、「息子と最後の別れをさせてください」と代官に頼みます。

 

 

息子が連れてこられました。

 

男は息子に言いました。

 

「おれはな、はじめ『きんぷくりん』といった魚を、こんどは『かんぷくりん』といったので打ち首になってしまうのだ。

申し開きは、いっさい聞いてもらえん。

だけど、おまえよく聞いておけ。

いかは、ほしたらするめになるんだぞ。

魚は、なまものと、ほしたものと名前が違うこともあるのだ。

おれは、その名前をちがえていったばかりに、打ち首になるんだ。

いいか、いかがするめになるということもあるんだぞ」

 

代官はこれを聞いて……。(続く)

 

*「きんぷくりんとかんぷくりん」は原文そのままではなく内容を要約しています。

 

 

 

いなかのお年寄りによって語り継がれてきた、お年寄りの語りは、耳で聞かせるために研ぎ澄まされたもので、その語り口について学んだ方々が再話しているため、絵本のように絵がなくても子どもがお話を想像しやすく、ストーリーが言葉と共に体に沁み込んでくるのです。

 

 

毎晩寝る前にこの中のお話を語っていると、3分ほどのお話でも、子どもが一字一句違えずすっかり覚えてしまいます。

 

 

そして、今度は覚えたものを他の人に語り出します。面白いことに、回数を重ねるごとに、語る調子も滑らかになっていきます。

 

 

昔々の日本でも、このような単純で明快な語り口のおかげで昔話が各地に自然と伝わっていった様子が想像できます。

 

 

 

面白さの中に、どこかミステリアスな雰囲気もただよう昔話の世界。

みなさんもぜひ楽しんでみてくださいね。

 

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奇妙で不思議な〈通り雨型〉絵本『むこうのかどをまがったら』

【今日のおすすめ絵本】(対象…2歳頃から)

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『むこうのかどをまがったら』

梅田俊作・佳子

あかね書房

 

(あらすじ)

「えきまで おとうさんを むかえに いって」だなんて、おかあさん どうかしてるよ。

あめなんて ふりそうに ないのに。テレビゲーム、おもしろいとこだったのになあ。

 

かどを まがると、ちょうちょが いちわ むこうの かどを まがっていきました。

 

ぼくが そのかどを まがると、ちょうちょは つぎのかどを まがるところです。

ぼくも いそいで かどを まがりました。すると……

(本文冒頭ママ)

 

 

ぼくは、お母さんに頼まれてお父さんを迎えに行くことになりました。

 

ぼくが、「むこうのかどをまがったら」いろいろなものに出会います。

 

予想だにしない不思議なものや景色に出会います。

 

 

 

いないないばぁのように、現れてはサッと消え、また現れてはサッと消え…。

 

消えるときには何事もなかったかのように消えるのです。

 

 

 

幼いこどもの文学は「行きつ戻りつ」(登場人物がどこかに行っても必ず元の場所に帰ってくる。もしくは想像の世界から現実の世界に戻ってくるものに安心感をおぼえる。)といわれますが、この行きつ戻りつが、ストーリーの中で何度も何度も繰り返されます。

 

非常に画期的です。

 

 

 

見えない場所から何かが次々出てくるという絵本は他にもありますが、こちらは少し趣きが異なり、最近よく見かける「奇をてらったナンセンス絵本」とは一線を画します。

 

 

スライドをみているように場面ごとの切り替わりにメリハリがきいているのです。

 

 

これは、きっと梅田さんの画力によるものです。

 

 

モノトーンに黄色を少しだけ配した水墨画のような味わい深いタッチで描かれ、現代のお話ですが、やや和風で古風な感じもする絵本です。

 

 

そういえば、「曲がり角」という言葉には、そもそも以下のような2つの意味があります。

 

まがり‐かど【曲(が)り角】
読み方:まがりかど

1 道などの曲がっている所。道などの折れ曲がっている角。「この先の—で折れる」

2 新しい状態などに変わる、変わりめ。転機。「運命の—」

『デジタル大辞泉 小学館』より

 

こちらの絵本では、1と2の両方の意味が絵とストーリーの中に自然に組み込まれて一つになることで、現実の世界と想像の世界の自然な橋渡しが可能になっているのです。

 

 

 

また、曲がり角といえば、日本では古来より(道が交差した場所)に棲みつく辻神の話や、小野篁が冥府との往復を果たしたという京都の六道の辻の話など、「辻はこの世とあの世の境界」と信じられてきた歴史があります。

 

 

この絵本で描かれる曲がり角に、読み手が何か不思議な魅力を感じるのはこういったイメージも多少影響しているのかもしれません。

 

 

みなさんも、曲がり角の先にある不思議な世界を、ぜひ楽しんでみてくださいね。

 

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〈旅行・帰省〉移動中の暇つぶしに読みたい本

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こんにちは。

ただ今、実家に帰省中のoicchimouseです。

私の実家は、結構遠方にあるため、新幹線&在来線を乗り継いで、大体5時間くらいかかります。

 

朝に出発して、新幹線で景色を楽しみつつ、お弁当とおやつを食べ……やがて暇になります。

 

そんなときに、ぴったりなのがこちらの本です。⬇︎

『ためして!ウラ技大全 ふしぎ!なんで?学べるライフハック200』

 

新学期が始まった学校で…または、会社の飲み会などちょっとした宴会の席で…

みんなを「あっ」と驚かせるライフハックが200も収録されているのです。

 

各裏技は、

●ココロ&カラダのウラ技

●日用品&グッズのウラ技

●食べ物&飲み物のウラ技

●掃除&洗濯のウラ技

といった風に、ジャンルごとに分類されているので、何か困りごとがあったときに、辞典のようにして調べることもできます。

 

例えば……

くしゃみを止められるウラ技

いつシャッターを押されても笑顔になるウラ技

走り回る子を一瞬で止められるウラ技

頭痛を和らげるウラ技

風船をビーチボールみたいにするウラ技

力を入れずに肩もみできるウラ技

寝返りを打っても浴衣をはだけなくするウラ技

体に巻いたバスタオルがずり落ちないウラ技

風邪気味でも翌朝にはスッキリしやすいウラ技

歯を白くするウラ技

洗濯物と一緒に洗ってしまったティッシュのクズを簡単に取るウラ技

 

などなど、旅行先でも役に立ちそうなウラ技も、盛りだくさんです。

 

思わず誰かに教えたくなるライフハックの数々。それぞれのウラ技のページには、「なぜそうなるか?」の丁寧な解説もついています。

夏休みの自由研究のネタにもいいかもしれませんね。

 

 

海も見えてきました。



………と、そうこうしている間に帰省先に到着です!

この一面緑色の田園風景と青い空と白い雲が、私にとっての「夏」です。

子どもは、稲の色が緑から黄色に変わってくる時、「もう夏休みも終わりだなあ」と毎年感じるそうです。

 

こちらの絵本も、懐かしい日本の夏の風景を存分に味わえるおすすめの一冊ですよ⬇︎

 

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『夏休みに読みたい絵本10選』後編

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『夏休みに読みたい絵本10選』後編

 

こんばんは。寝てる間に足の甲を2箇所蚊に刺されて、かゆいかゆいoicchimouseです。

 

今日は、前回からの続き、『夏休みに読みたい絵本10選』後編です!

 

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⑥『ガンピーさんのふなあそび』

ジョン・バーニンガム さく

みつよし なつや やく

ほるぷ出版

舟を一そう持っているガンピーさん。舟で出かけたガンピーさんに、途中、子どもたちや動物たちが次々と「いっしょにつれてって」「わたしもいっしょにいっていい、ガンピーさん?」と声をかけてきます。

そのたびに、ガンピーさんは、「いいとも。〜さえしなけりゃね」と条件付きで許可します。舟が満員になったあたりで、みんなが約束を破りはじめ、ついに舟がひっくり返って……。

 

ウクライナ民話『てぶくろ』と同様、限られたスペースに次々と人数が増えていくスタイルのお話です。子どもの好きな繰り返しと、舟がひっくり返ってみんな落ちてしまうハプニング。その後の展開もとても爽やかです。

 

見開き左側に、舟が進んでいく様子がモノクロ(こげ茶色)で描かれ、右側に、新たな登場人物がカラーで描かれています。

水辺に生い茂る草や、涼しげな舟遊びの様子が、暑い夏の日に心地よい清涼感を与えてくれます。

 

 

⑦『とべコウタ』

吉岡 一洋 作

福音館書店

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コウタは毎日近所の友達といっしょに海に遊びにいきますが、怖くて、みんなのように、岩の上から上手に海へと飛びこんでいくことができません。

 

くやしがっていたコウタは、大将のクンタンに手をひっぱられ、岩からはじめて飛びこみました。耳が痛くなり、塩辛い水も飲んで、怖い思いもしましたが、一度飛びこめたことでコウタは少し自信がつきます。

 

浅瀬で頭を水につけて目を開ける練習をしてみると、水の中にはいろいろな生き物が見え、目も痛くありません。

うれしくなったコウタはみんなのところに走っていき、今度は、ひとりで岩から海に飛びこむことに成功します。

 

見開き一面に、引きのアングルで描かれている場面の海は、美しい青色なのに対し、岩からの飛び込みの場面で、海が目前にせまっているときには、海の色はどこか不安を感じさせるような深い緑色で、泡立つほどに波立っています。

 

海で泳いだことのある人は、この色合いの差(遠くから見る海と、目前に対峙したときのリアルな海の印象の差)をどこかで感じたことがあるはずです。

 

海は美しく、同時に恐ろしいものであること。また、恐ろしいものであると同時に、いろいろな魅力的な表情を見せてくれること。仲間とともに、子ども時代のかけがえのないひと夏を、全身全霊で駆けぬけることの素晴らしさ。

 

海に挑んでゆく子どもたちは、生命の象徴であるかのごとく、肌や筋肉が健康的に輝き、目には力が宿っています。躍動感のある絵からは、子どもたちの息づかいや、潮の香り、波の音、太陽で温まった岩のぬくもりまで伝わってくるようです。

 

一昔前には当たり前だった、「子どもたちだけでの特別な夏の遊びのシチュエーション」は、現在では、さまざまな事情から難しくなっていますね。

 

こちらの作品は、こういった経験の少ない現在の子どもたちも、コウタと同じような思い出がある、かつて子どもだった方たちも、ひととき、懐かしい夏の海へとトリップさせてくれる素晴らしい絵本です。

夏になると必ず読みたくなる一冊です。

 

⑧『きつねをつれてむらまつり』

こわせたまみ・作

二俣英五郎・絵
教育画劇

今日は山の向こうでお祭りです。

おもちゃを積んだ車を引いて、あちこちのお祭りに行っておもちゃを売る仕事をしている、ごんじいは、峠に着くと、やれやれとひと休みしました。

 

ふと見ると、やぶの影で、1匹のきつねがくるんと宙返りをしています。

 

(にんげんなんぞに ばけて、おまつりにでも いきたいんじゃな)

そこで、ごんじいは言いました。

「さて、そろそろ でかけようか。だれか、いっしょに いってくれるこどもでも いると いいんじゃが…」

 

すると、待っていたように一人の男の子が「ごんじい、いっしょに いこう」と言って走り出てきました。

 

ごんじいはびっくりしました。

だって、体や手足は人間の子どもなのに、顔だけきつねの男の子が「どうだい!」といった様子で立っていたからです。

 

ごんじいはだまされたふりをしてあげることにして、「いいこじゃな」と言うときつねのままの顔がみんなに見られてしまわないように、お面をかぶせてやりました。

 

二人は本当のおじいちゃんと孫のように、仲良くお祭りに出かけていきます…。

今より少し昔の、ノスタルジックな村祭の風景や、素直で可愛いきつねの子ども、きつねにだまされたふりをして、本当の孫のようにかわいがるごんじい、心優しい村の人々。

 

人と自然が共存して暮らす、ゆったりとした時代を思い起こさせるような心温まるお話です。

 

 

⑨『とうもろこしおばあさん』

秋野和子・再話

秋野亥左牟・画
福音館書店

ある村に一人のおばあさんがやってきました。

「ここに ひとばん とめてくださらんか」

「子どもがいっぱいで泊めてあげられない」と断られたおばあさんは、次の村に行きます。

 

次の村でもおばあさんは、同じように、泊めてもらえないかとお願いしますが、「見知らぬおばあさんを泊めるわけにいかない」と断られます。

 

おばあさんは歩き続けて、ついにアリゲーターという小さな村にたどりつきました。

この村では、「どうぞ、どうぞ、おばあさん、すきなだけ いてください」と言われ、泊めてもらうことができました。

 

翌朝、大人たちは仕事に出かけ、おばあさんは子どもたちと、村に残りました。

子どもたちが遊んでいると、おばあさんの姿が見えなくなります。

 

おばあさんは見たこともないパンを持って再び現れ、そのパンを子どもたちに渡しました。

子どもたちの話を聞いた大人たちも不思議なパンを食べたくなり、おばあさんに頼みます。

 

大人たちもおいしくて大喜びしました。

これがなんなのかおばあさんに聞くと、「とうもろこしというもんだよ」と教えてくれましたが、どこで手に入れたのかは、教えてもらえませんでした。

 

とうもろこしをどうやって手に入れているのか気になった若者は、ある日、おばあさんの跡をつけていきます。

おばあさんがテントの中に入ったので、若者はこっそり中を覗いてみました。

すると………。

 

その夜、今まであんなにおいしかったとうもろこしを、若者は食べることができませんでした…。

 

若者がとうもろこしを食べられなくなるのも無理がないくらいの衝撃。

非常に生々しいのです。

 

しかし、考えてみると、私たちはみんな、とうもろこしのような野菜でもお肉でもお魚でも、「生きたもの」、所謂「生(せい)」をいただいて食べているのですから、「生々」しくて当たり前なのですよね。

 

非常にアメリカ・インディアンらしい、しっかりと土地に根付いた、いいお話です。

 

こちらは絵本ですので、耳だけで聞くよりリアルで、やや衝撃的に感じる場面もあるかもしれませんが、もともとは、口承伝承で、伝わってきたものでしょうから、もしかしたら衝撃的な場面も、もっとナチュラルに捉えられていたのかもしれません。

 

とはいえ、秋野亥左牟さんのアーティスティックな挿絵はこのお話に非常によくあっていて、私たちは、物語の世界にすんなり入り込み、遥か昔のアメリカインディアンの地に思いを馳せることができます。

 

とうもろこしをちょっとだけ食べづらくなる可能性は否定できませんが、本当の食育と深くつながっている素晴らしい絵本だと思います。

 

とうもろこし、嫌いになったらすみません。

 

⑩『ちょうちんまつり』

唐亜明 文

徐楽楽 絵
福音館書店

昔、中国のある村に、王七(ワンチイ)というお百姓がいました。

 

王七が畑仕事に出かけようとすると、妻は、「こんやは、ちょうちんまつりですから、はやくかえってきてください。〈中略〉それから、かえりにまきをすこしとってきてください。かがり火をたきますから」と言いました。

 

昼過ぎ、王七は、いつもより早く仕事を終え、斧を片手に、薪を探して山に登って行きました。

 

すると、山の中に大きなほら穴がありました。「こんなところに、ほら穴があったかなぁ」と不思議に思いながら中を覗くと、真っ白い髭の、二人の老人が碁をうっていました。

 

王七は、碁が大好きなので、つい近寄って見物し始めました。
二人は王七を気にも留めず碁をうちつづけます。
そして、そばにある壺の中から、なつめの実を取り出して、口に入れました。

王七にも一つくれました。

 

王七がそれを食べてみると、なんとも言えないほどおいしく、そのうえ、たった一つ食べただけなのに、おなかがいっぱいになってしまいました。

 

王七が老人たちの顔を見ると、ついさっき胸までしかなかった真っ白い髭が、いつのまにか膝の上まで垂れ下がっていました。

 

王七は、気味が悪くなって斧を持って逃げ出そうとします。ところが、斧の柄は腐ってぼろぼろになり、刃はすっかり錆びて、赤茶けた土の塊のようになっていました…。

このお話は、とても「すごい」お話です。

ほら穴で不思議ななつめの実を食べて、時間がとてつもなく進んでいるというところは、浦島太郎や、他の昔話でも見たことがありますが、このお話はそれだけでは、ありません。

 

そこからの展開が凄まじいのです。
時空を超え、大気圏をも超えて行く、ものすごいSF大作です。

 

巻末を見ると、「『列仙全伝』1600年、『FAIRY TALES FROM CHINA』1880年代、『支那童話集』1925年、に基づいて再話しました。」
と書かれているのですが、関ヶ原の戦いの頃に、これだけのずば抜けた想像力を持った人物がいた、もしくはそれ以上前から、口承伝承されていたのかもしれませんが、そのことにとても感動を覚えます。


やはり、昔話には、ロマンがありますね。

最後は安心のハッピーエンドです。

oicchimouseが全力で推す一冊です。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2回にわたってご紹介させていただいた『夏休みに読みたい絵本10選』、いかがでしたでしょうか?

 

絶版になっているものも多いのですが、ぜひこの夏、図書館などで探して手に取っていただけるとうれしいです。

みなさま、すてきな夏をお過ごしください!

 

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『夏休みに読みたい絵本10選』前編

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『夏休みに読みたい絵本10選』前編

 

こんにちは。oicchimouseです。

子どもたちは、明日から夏休みに入るところが多いそうですね。

 

大人はなかなか、子どもたちのようにゆっくり休めませんが、少し涼しくなってきた夜の一人時間、チリンチリンと鳴る風鈴の音とともに夏の絵本を楽しんでみるのも風情がありますよ。

 

これから前編(今回)・後編(次回)の2回に分けて、大人も子どもも楽しめる夏におすすめのとっておき絵本をご紹介していきたいと思います。

[順不同]

 

①『こぎつねキッコ』

松野正子・文

梶山俊夫・絵

童心社

子どもが10人、先生1人、お部屋が1つの山の幼稚園の裏山に母さんと住んでいるこぎつねのキッコちゃん。

キッコちゃんは幼稚園をのぞくのが好きで、みんなが折り紙をするときは木の葉を折って真似をしています。

夏休みに入り幼稚園がお留守になると、母さんは、しばらく誰も来ないから幼稚園に遊びに行ってもいいよ、とキッコちゃんに言います。

キッコちゃんは、前から乗りたかったブランコに乗って、幼稚園の女の子になった気持ちがしたり、砂場で、お山を作ったりして、幼稚園を満喫します…。

キッコちゃんやお母さん、幼稚園の生徒や先生。登場人物がみんないい人で温かくて、幸せな気持ちになれます。

素朴なタッチで描かれるキッコちゃんの楽しそうな表情がとてもかわいらしい一冊です。

 

②『ボートやのくまさん』

フィービ・ウォージントン さく・え

こみや ゆう やく

福音館書店

イギリスの傑作絵本、くまさんシリーズより『ボートやのくまさん』です。

うまのデイジーと、いもうとのスージーと一緒に暮らしている、ボートやのくまさんの一日が、牧歌的な雰囲気でつづられた不朽の名作です。

涼しげな水辺の様子や、近所の人々との交流など、読んでいると疲れた心が穏やかに凪いでいく一冊です。

 

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③『うんがにおちたうし』

ピーター・スパイアー
フィリス・クラシロフスキー
みなみもと ちか やく

ポプラ社

オランダの畑の中で暮らしている牛のヘンドリカは、ただ食べて、ミルクをしぼらせてあげるだけの毎日や、かわりばえのしない風景に嫌気がさしていました。

馬のピーターが町の話をすると、ヘンドリカは、行ってみたくて仕方がなくなります。

そんな、ある日、食べて食べて太りすぎたヘンドリカは、足を滑らせて運河に落ちてしまいます。
途中で箱にぶつかり、押しているうちに、ヘンドリカは、箱に乗っかってしまい、そのまま流されて行ってしまいました…。

「回遊式絵本」と命名したくなる一冊です。
運河を流される様子も涼しげで、暑くて退屈な日にぴったりです。

 

④『おとうさんねこのおくりもの』

メアリー・チャルマーズ さく・え

まつの まさこ やく

福音館書店

ねこの子どもたちは、蛾の子どもや、うさぎさん一家が、ピクニックに行くことを知り、おとうさんねこに「自分たちもピクニックに行きたい!」とねだります。

おとうさんは、「今日は忙しいからだめ」と言い、次の日も「やらなきゃいけない仕事がある」と断り、なかなか連れて行ってくれません。

ついにピクニックに行けることになった日、子どもたちは、あまりにうれしくて、朝の4時に起きました。

そして、おとうさんねこには子どもたちを喜ばせるための、とっておきのサプライズがあったのです。

ピクニックが楽しみで仕方がない、ねこの子どもたち、子ども思いのお父さん、水辺での涼しげなピクニックの様子。
どのページも優しくて、のんびりしていて、ピクニックに行きたくなってきます。

モノトーンに、部分的に配色が施されている絵も、とても可愛くて素敵です。

 

⑤『わたしのおふねマギーB』

アイリーン・ハース さく え
うちだ りさこ やく
福音館書店

「これは おねがいが かなった おはなしです。

あるばん、マーガレット バーンステイブルは おほしさまに おねがいしましたーーー

ほっきょくせいさん

うみの おほしさん

おふねが ほしいの

わたしの なまえつけた おふねで

おもいっきり うみを はしりたいの

いちんちじゅう

だれか なかよし

いっしょに のせて

そして マーガレットは ベッドに もぐりこみました。

めが さめてみると、マーガレットは ふねのなかでした。

ふねの なまえは マギーB。」(原文ママ)

夜の夢の中のお話なのか、マーガレットの想像の世界のお話なのか、はたまたお星さまが叶えてくれた一日だけの本当の世界なのか。

とても不思議で曖昧な世界を、マギーBは、気持ちよく走ります。

船の一番上のデッキには小さな畑があって、ヤギ、ひよこ、りんごとももと、オレンジの木、オレンジの枝にはオオハシ。

朝ごはん用に、オレンジを一つもぐ…。

曖昧で自由な世界は子どもの特権ですが、大人もひと時、曖昧な世界に身を置いて、くつろぐのはとても素敵なことです。

特にのんびりとした休日のひとり時間には…。

潮の香りがしてきませんか?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

いかがでしたか?

絶版の絵本については、図書館にあるかと思いますので、ぜひ手にとってみてくださいね。

 

次回は、今回に引き続き水辺が舞台の涼しげな絵本をご紹介するほか、少しミステリアスで不思議な雰囲気のものや、ノスタルジックな日本の夏を感じる作品などもご紹介していきます!

 

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真夏の風のない夜は…『ぬまばばさまのさけづくり』

【今日のおすすめ絵本】(対象…4歳頃から)

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『ぬまばばさまのさけづくり』

イブ・スパング・オルセン さく・え

きむら ゆりこ やく

福音館書店

 

(あらすじ)

沼地はなかなかいいところです。

 

真夏の風のない夜、地面や水面から白い「もや」が立ちのぼってくるのは、「ぬまばばさま」がお酒を作っているからです。

 

ぬまばばさまの旦那さんは、「ぬまじじさま」。

子どもは、たくさんの可愛い「ぬまむすめ」達と、あまり可愛くはない「ぬまこぞう」達です。

 

ぬまばばさまの家族はみんな、おひさまが大嫌い。

おひさまが昇ると、ぬまばばさまは、土の中にもぐり込み、

ぬまじじさまは、その場に座り込んでカワヤナギになり、

ぬまむすめは、座ったとたんに草むらに変わり、

ぬまこぞうたちは、遊びに夢中でおひさまに気付かず、そのままかたまってしまいます。

 

沼地で皆さんが目にする、地面から突き出た枯れ枝は、ぬまこぞうの足。沼地の草むらは、ぬまむすめの髪の毛なのです。

 

夏。ぬまばばさまは家族や沼のみんなと協力してお酒を作ります。

 

冬。沼の家族は土の中。ぐっすり眠っています。

そして訪れた春。

 

夜になると春が来たお祝いのパーティーをします。

いよいよ、お酒を飲む時がやってきたのです。

 

このお酒には特別な力があって…。



夏の酒づくりから冬眠を経て、ようやく訪れた暖かな春。

おひさまの光が苦手なぬまばば一家ですが、実は彼らは春の訪れを告げる使者でもあるのです。

 

自然に対する親しみや畏敬の念。新たな命の誕生。芽吹き。

 

土や草の放つ、むせ返るほどに力強い香りがただよう生命の讃歌です。

 

皆さんも、ぜひ、真夏の風のない夜に、草木や土の声にそっと耳を傾けてみてください。

何か聞こえてくるかもしれませんよ。

 

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チェコ児童文学の傑作古典『こいぬとこねこは愉快な仲間』

【今日のおすすめ絵本】(対象…小学校中学年から大人まで)

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『こいぬとこねこは愉快な仲間』

ヨゼフ・チャペック 作・絵

いぬいとみこ・井出弘子 訳

河出書房新社

 

(あらすじ)

こいぬとこねこが仲良しで、一緒に暮していた頃のお話です。

 

ふたりは森の中に、小さいうちを建てて、一緒に住んでいました。そして、何から何まで、人間の大人たちがやるとおりに、やりたいと思っていました。〈中略〉

 

それにふたりは、学校に行っていませんでした。だって、学校は、人間の子どもたちのためにだけあるんですものね。

 

こんなわけで、こいぬとこねこのうちの中は、うまくいっている時もあれば、そうもいかず、時には、とてもちらかってしまうのでした。(本文冒頭ママ)

サブタイトルは、「なかよしのふたりがどんなおもしろいことをしたか」

 

ヨゼフ・チャペックが、素朴でちょっと間の抜けたような愛らしい挿絵とともに贈る、ユーモアに満ちた10話のお話です。

 

ときには、お話の中に、作者であるチャペック自身も登場し、こいぬとこねこと一緒に愉快なやりとりを繰り広げます。

 

「何から何まで、人間の大人たちがやるとおりに、やりたいと思って」、自分たちの知識や経験を総動員しながらいろいろと試してみる様子は、危なっかしくもありながら、どこか頼もしくもあり、幼い子どもたちのそれと重なります。

 

家が汚れていることに気付いた二人が床を掃除しようとするが、やり方がよく分からず、お互いをモップの代わりにして掃除するお話。

 

こいぬのお尻のズボンが破れてしまい、こねこが、紐と間違えて道端にいた「みみず」のお嬢さんでこいぬのズボンを繕うお話。

 

お店屋さんが赤ちゃんにサービスでくれる小さい旗をもらうため、こいぬがこねこを「おくるみ」にくるんで、買い物に行くお話。

 

チャペックさんに、こいぬとこねこが新しいお話のアドバイスをしに行くお話。(こいぬが、自分が魔法にかけられた王子、こねこが魔法にかけられた王女、というお話はどうかと提案すると、「のみ」だらけの王子はおかしい、とこねこが反論。こねこもこの間ポリポリ掻いていたと指摘され、「かゆいときに体をかいてなぜ悪い」と喧嘩になる。)

 

などなど、どのお話も読み終わるのがもったいないくらいの面白さで、読んでいると、なんだか自分もこの二人の仲間に入れてもらいたくなってきます。

●作者であるヨゼフ・チャペックは、ボヘミア東部のフロノフ生まれ。祖母は、賢明でユーモアに充ちた性格で、孫たちに物語を聞かせ、母は読書家で、民謡、伝説、伝承物語の収集家で、これらの生い立ちが、チャペック作品の基礎になっているといわれている。

ナチスがチェコを脅かす予感の下で、反ファシズムの文化人の闘いに、ペンと筆で参加。そののち収容所に送られる。

最後は英軍による解放直前に、アンネ・フランクと同じベルゲン・ベルゼンの収容所(最も衛生状態が悪い)に送られ、そこで亡くなったと記録されている。(訳者あとがきより要約)

 

読者である子どもたちや、動物に対する温かい眼差しとユーモアにあふれた本作品から垣間見える作者の人柄。それと同時に彼がホロコーストの犠牲者であったこと。時代に翻弄された才能ある作家の無念を感じずにはいられません。

 

 

 

岩波少年文庫からも出ています。こちらは翻訳を木村有子さんが手掛けられています。⬇︎

 

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ようこそ「考現学」の世界へ!『町のけんきゅう』

【今日のおすすめ絵本】(対象…小学生から大人まで)

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『町のけんきゅう』

岡本信也・岡本靖子=文・絵

伊藤秀男=絵

福音館書店

 

 

(あらすじ)

わたしのお父さんとお母さんは、町のけんきゅうをしています。きょうは、お父さんとお母さんといっしょに近くの町を歩いて、わたしもけんきゅうをしました。

(本文ママ)

3人は、「なにか、おもしろいもの」を探して、町をうろつきます。

「わたし」は飲食店のショー・ウインドウを見ながら「カレーライスとカレーを使った食べもの」を研究しました。

カレーライス、カレーライス半熟卵付き、カレーとライスが別々のもの、カレーきしめん、カレー丼、カレーラーメン…。フィールドカードにそれぞれのイラストを描いて、その特徴や金額も書き込みます。

 

お父さんは地面に落ちている「カンのふた」の研究にのめり込んでいます。

今では見かけることが少なくなった昭和・平成世代懐かしの「プルリング」です。お父さんは、カンのふたが落ちていた場所や、ふたの壊れ方(ちぎれている、傷がある、曲がっている、サビ具合…等)、ふたのデザインや特徴まで入念に調べました。

カンのふたも丁寧に並べるとまるで貴重な標本のようです。

 

お母さんは、「もの干し台や干し方」の研究です。

お母さんは、団地のベランダやよその家の軒先をじっと観察しています。布団などの大物はなかなか干す場所に困りますが、その個性的な干し方の数々には主婦の方々のセンスと熟練の技がきらりとひかります。

布団をベランダや屋根に干すといったオーソドックスな干し方から、自転車の前カゴに座布団、サドルから荷台にかけての部分に布団をかぶせる方法、自動車の上に毛布、植木鉢に棒を立てて棒に靴を挿して干す方法から、なんとなんと道端の電柱に洋服を吊るして干すといったツワモノまで…。

 

3人はこの他にも、飽くなき好奇心からたくさんの研究をします。

私が特に心惹かれた研究はこちら⬇︎

「もの売りの声」の研究

●「おばあさんのはきもの」の研究

●「電車のなかでのすわり方・しぐさ・つりかわの持ち方・足の組み方・かさの持ち方」の研究

●「なかよしカップルの手のつなぎ方」の研究

●「おじいさんたちの頭」の研究(調査結果:グレー99人、白髪33人、毛が薄い黒髪108人、毛が薄い白髪51人、毛がない22人)

 

こういった研究のことを「考現学」というそうです。

巻末の作者の「あとがき」によりますと、

 

考古学古い時代のことを調べる学問。出土品や石のかけらなど、普通の人には何の価値もないような古いものや、遺跡などから、過去の人間の生活、暮らし、文化を研究するもの。

考現学考古学の現代版。現在の人の暮らしや風俗を、観察・採集し、ありのまま記録し、研究するというもの。大正時代末期に日本で始まった。

 

と書かれています。

 

この本が最初に書かれてから(1993年)、また随分と私たちの暮らしも様変わりしていますので、今だとまた違った考現学の研究ができそうですね。

週末、散歩がてらお近くの町でぜひ「町のけんきゅう」をされてみてはいかがでしょう。

思わぬ発見があるかも?

 

 

夏休みの自由研究にもおすすめです⬇︎

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夜の砂浜はお魚たちの社交の場『あたごの浦』

【今日のおすすめ絵本】(対象…3歳頃から大人まで)

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『あたごの浦』

讃岐のおはなし

脇 和子・脇 明子 再話

大道 あや 画

福音館書店

 

 

(あらすじ)

前はとんとんあったんやと。ある、お月さんのきれいな晩のことや。

あたごの浦に、波がざざーっと、よせてはかえし、よせてはかえし、砂浜は、明るいお月さんに照らされて、キラキラ、キラキラと、光っりょったんやと。

〈本文冒頭ママ〉

ある晩、お月さんの光にうかれて砂浜へ上がってきた「おたこ」

おたこは、そこにあった畑に入って「おなすび」をちぎってはムシャムシャと食べ出します。

 

そこへ、同じように浜へ上がってきた「鯛」

鯛は、

「こらこら、おたこ、おまえはそこで、なにをしよんや」

と、おたこに声をかけます。

 

おたこは、

「へえ、おなすびちぎって、食べよります」

と、答えます。

 

鯛が、

「そうか。それもええけど、今晩は、お月さんがきれいなけん、ひとつ、魚どもを集めて、演芸会でもせんか」

と言うと、おたこは大喜びで波打ち際へ行って、大声で「おーい、演芸会するぞオー」と呼んで魚たちを招集します。

 

一斉に集まってきた大勢のお魚たち。

演芸会は歌ったり踊ったりの大盛り上がりです。

すっかり場が温まったところで、鯛がみんなに「かくし芸」の見せ合いを提案します。

みんなは大賛成で、自分の十八番の物真似を披露し合います。

 

エントリーナンバー1番の鯛は、浜辺の松の木にするするっとのぼって、松の枝にぴたっとはりつくと、

「松にお日さん、これどうじゃ」

と、言いました。

観客のみんなは感心して

「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)

とはやしたてました。

 

次々に魚たちが自分の芸を発表し、その度に観客のみんなは「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)とはやしたてます。

 

そしてお月さんがかたむいてきた頃、みんなそろって海の中へと帰って行きました。

最初から最後まで讃岐弁で語られているこちらの絵本。

声に出して読むと非常にテンポが良く、まるで何かの民謡を口ずさんでいるかのような音楽的な趣があります。

 

そして、本筋とはあまり関係のない、「海から上がってきたタコが畑に入って、なすびをムシャムシャ食べる」という珍しいシチュエーション。

読むたびに興味惹かれる場面です。実際にはタコはなすびを食べないようなのですが、なぜなんだろう…。タコとなすびの形が似ているからなのか…?

ちなみに、「タコは芋が好物で、海から上がってイモ畑のイモを盗む」という伝説があるそうなので、もしかしたら、こういった伝説から派生してきている描写なのかもしれません。

考えると面白いですね。

 

そして、鯛がリーダーシップを発揮する頼もしい姿や、タコや他の魚たちが鯛に敬語で喋っている姿も、どこかの会社の新年会の風景のようで、おかしみがあります。

 

また、読み聞かせで子どもたちが一番食いつくのが魚たちの決め台詞の

「妙々々々々々」(みょうみょうみょうみょうみょうみょう)

です。

辞書によると、「妙々」=妙々たる(とても優れているさま)。

つまり「いいね、いいね〜、めっちゃすごーい」的な意味のようですが、何かのおまじないのような呪文のような響きが、子どもたちには新鮮なようです。

 

月の光と波の音で、物語の世界が始まり、再び月の光と波の音で物語の世界から現実の世界へと戻ってくる、「行きつ戻りつ」の伝統的な昔話。

子どもの文学は「行きつ戻りつ」。

 

ざざーっとよせてはかえす波の音や、夜の海の風景、魚たちの素朴で温かな交流は、大人の心も穏やかなものにしてくれます。

ぜひ、楽しんでみてくださいね。

 

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